「21世紀はバイオの時代」(講演)

大阪府立大学農学部教授 川崎東彦氏

1月17日に大阪での「菅原ゼミ」の勉強会で公園と懇談に参加させていただいた。

川崎先生は農芸化学、生命化学がご専門で、バイオサイエンスの今後についての夢のある幅広いお話を伺えた。

バイオサイエンスの発展領域

全ての生命体の遺伝子(DNA)は2重の螺旋構造による4つのタンパク質(T,C,A,G)の組み合わせによって遺伝子コードが書き込まれており、「生物としての人間」を理解する原点になっている。米国のセレーラ社は既にヒトゲノム(人の全遺伝子情報)の解析を終えたと発表、無償公開の予定といわれている。世界のバイオサイエンス市場は2015年には25兆円となり、立ち遅れている日本でも1兆円産業になると見込まれている。その発展が見こまれる領域は@医療、A食糧、Bエネルギー、C環境の4つに分けられる。

@医療分野

まず医療面では、ポストゲノムを研究していくと生命の根源が分かり、遺伝子診断で発ガン遺伝子の予防・治療をしていくなどにより300兆円の市場になるともいわれる。 植物の細胞は、根とか葉とかどの部分をとってもこれを培養・増殖すれば成体となる。これと同様に動物でもES細胞という万能細胞のあることが分かってきた。

ES細胞について科学的研究の推進、医療への応用、医薬品の開発などを総合的に進めていくことが重要である。成人病は遺伝子の何処かに欠陥があるので、万能細胞をもとに自分の細胞で心臓や胃などの臓器を再生し交換していく技術が進めば、再生医療により人間の寿命は飛躍的に伸びる。ちなみに2050年には65歳以上の高齢者人口が40%以上になるとの予測がある。

A食料生産分野

食糧面では遺伝子操作によりすでに害虫や気候の耐性があって高収率の品種がどんどん市場に登場してきた。世界の人口が現在の65億人から2050年に100億人近くになっても地球の温暖化、砂漠化などの課題があっても食料生産は対応できると考えられる。日本の食糧自給率は40%と低いが、米国やフランスなどのように自給率100%以上を目指す施策が現実化するかもしれない。自然界ではゆっくり遺伝子の変化が起っているが、実験室で短時間で遺伝子組み替えにより変化が起こる。基本的には安全性が高い技術と認識しているとのことである。

Bエネルギー分野

現在、エネルギーの85%は化石燃料が使われているが、植物のバイオマスよりアルコールを作り出し利用できると太陽エネルギーを直接エネルギー利用できることになる。繊維質(セルロース)を急速に分解するのは、現段階では難しいが、長期的な視点でチャレンジすべきテーマである。

C環境分野

環境面では微生物を使って、生ゴミの堆肥化や汚水、汚泥の分析は実用化されており農薬分解の遺伝子活用など、今後多面的に利用分野が広がると予測される。

菅原ゼミの主宰者である菅原先生はこの正月に急逝された。ご冥福をお祈りします。

本会は女性を含む事務系の方が主力メンバーの勉強会で、社会的に関心の高いテーマについて講演と懇談を 企画・実施頂いている。今回の川崎先生は大学からの出前講座と認識して とのことであるが、最近のトーモロコシによるアレルギー性問題などのマスコミ報道を見  ると、技術等について社会的な理解と信頼を獲得する場としてこのようなセミナーは有効で興味深く聴くことができた。

目次へ