「危機の日本経済」
大阪大学経済学部本間正明教授講演(2001.6.22)より
経済の見なおしと展開(講演要旨)
90年は絶頂期にあったが、その後の失われた10年を総括して基本方針をたて、構造改革を推進していくが、この2〜3年を調整期間として改革のためのコストを払う必要がある。
現在は90年よりGDP(国内総生産)は拡大しており、史上最も豊かな時代といえる。しかしながら、現在は供給が需要を上回っており、需給バランスは主に供給側に問題がある。
経済の変化について
@市場のグローバル化及び価格の変動価格経済
ユニクロの衣料やしいたけなどの農産物に見られるように中国との摩擦は生産性競争によるもので、日本企業が中国に生産移転して起こった。90年頃は供給が需要を上回っていたので、企業業績は売上とシェアで経営(利益の確保)できた。今後は今後の企業価値で評価されるもので、米国では中小企業や個人企業の方が元気が良い。
A固定経済から可動経済へ、IT革命がこれを加速
従来は株の持ち合い、もたれあい、系列、土地価格などがベースにあった。問題を先送りして、そのうち経済が戻るとして不良債権が増大した。生産と価格体系のミスマッチがありマネジメント能力の低下により収益が稼げないし、金融サイドは収益構造が弱く、追い貸しして実質金利はマイナス状態である。景気が悪いのは政府のせいとはいえない。
B外生的成長から内生的成長へ(危機意識の経済)
米国ではレーガンからブッシュへ、英国ではサッチャーからブレアへと移る中で経済が蘇生した。特にレーガンは小さな政府を目指し、民間への移行を進めた。従来の生産者主権から消費者主権への変化で、知恵を出すことによって比較優位を保つもので、サービス経済化の中で一層顕在化してきている。
経済のサービス化、高度化が進み、国民の価値観・感性の変化や少子・高齢化に伴い相対型のサービスが重要になり、選別して価値あるものの選択(value for money)が進む。
色々な制度改革が必要
現在預貯金が1400兆円と圧倒的に大きい。これらは財政投資に使われるが、生産性の高いところへ金が回らないため、間接金融から直接金融にシフトが必要である。
国の債務は666兆円で、民間経済と公共経済の整理を図って国債発行高を抑制する必要がある。社会保障制度については払っているものと受け取るものを見えるようにして、持続可能なものにし、高齢者が安心できることが重要であるし、一方で経済化(マーケット化)して市場を作り出すことが重要である。国と地方の関係については、国の関与が大きすぎてモラルハザードを引き起こしている。固定既得権化している仕組みを、地方が自分の意思で決定できる仕組みにするための「危機の共有」がスタートである。
竹中経済財政政策他財政政策担当相は意思決定のプロセスをオープンにして、政治家や官僚、ジャーナリズムの硬直化を打破し「合意形成」することをめざすとしている。
基本方針について、メンバーである牛尾さん、本間さんも自ら高い評価をしているし、経済界も これを強く支持する構えである。小泉内閣になって諮問会議の雰囲気が一転し、モチベーションが高まった。党と内閣の関係が逆転したともある。(日経ビジネス6.25)
骨太の方針について(新聞等の要約)
橋本内閣の行政改革路線、小渕内閣の構造改革路線に続き、森内閣時の本年1月に経済財政諮問会議が設置され、6月21日に答申が出された。不良債権処理と財政支出の抑制以外は (今までと)同じ路線上にあり、改革の実効性がポイントであるが、21世紀のわが国はこの方針に基づく強力な推進が期待されている。方針は @聖域なき改革、 A証券市場を改革し、個人資金の導入による新産業の育成などにより、以下の方向での検討が進められる。
- 構造改革と経済の活性化⇒不良債権最終処理、財政構造改革(国債発行を30兆円以下)
- 新世紀型の社会資本整備⇒公共事業について、可能なものは民間に、費用対効果の勘案
- 社会保障制度の改革⇒国民の安心と生活安定のため、医療、年金、介護などを総合的に
- 個性ある地方の競争⇒自律した国・地方の関係により自助と自律の精神で抜本的改革
- 経済財政の中期見通しと政策プロセスの改革⇒2〜3年は調整期間
小泉首相を議長とする経済財政諮問会議の答申「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」発表の翌日、本間教授の講演を聴くことができた。新聞や雑誌からの情報とあわせて要点を整理した。諮問会議は閣僚6名、速見日銀総裁、民間4名(ウシオ電機の牛尾治朗会長、トヨタの奥田碩会長、吉川洋東大教授、本間阪大教授)の計11名で構成され、森内閣時に発足。答申の内容に沿った改革ができなければ、日本は20年は遅れるとの言葉が印象的だった。