「家族のライフスタイルの変化と都市づくり」
槇村久子教授(京都女子大学 技術士(建設、環境、総合技術監理))
1.いきいき生きるために
社会変化の中で主体的に 自分らしく生きる(自己決定権と選択の可能性)ことが重要であり、その中で、女性にとってはリプロダクティブライフ(出産計画)も特に重要な意味がある。
人は①1日24時間、②人生80年の中で、自分と家族、職場、社会との関係(ライフスタイル)をどう作るかを考え生活を設計することが大切で、例えば、車を使用しないでも生活できる都心居住の再生というシステムづくりが今後の大きなテーマである。行政は、「まちづくり」に際し市民参加のしくみを作りつつあるが、形だけのパブリックコメントではないスキル作りが重要である。
「子供と高齢者」にはケアが必要であり、21世紀社会ではこれを支えるしくみが絶対必要である。以前は共働きの中でこの問題に直面し、苦労した。今は子供も大きくなり、時間を自由に使えるが、何を大切と考えて時間コントロールするかが重要である。
2.ライフスタイルを変える「高齢化」と「地球環境問題」の2つの波
ライフスタイルがどう変わるか、「潜在ニーズ」を捕まえ、応えることが重要である。以前、住宅メーカーと共働きを意識した新しい住宅のコンセプト作りを行った。①台所などでの動線を短くする、②段差、仕切りをなくす、③コミュニケーションの場として、室内を見通せる、④台所の充実などを提案したが、これは「高齢者にも適した住宅である。」。また、高齢者には畳の部屋より、起き上がりやすい洋室の方が良いとか共働きでは屋根のあるところで洗濯物を干せることが重要である。
一方、20世紀社会ではスピードと拡大を求めつづけてきたが、エネルギーマキシマイザー、タイムミニマイザーではなく「時間経過そのものに価値が置かれる社会」へ変わらなくてはならない。
今までは、20台から50台までの働く年代に重点をおきすぎたが、0歳から90歳までの人生で、それぞれが存在すること、行動の選択の可能性があることが重要で、ユニバーサルデザインは当然の方向であり、高齢化と地球環境問題はライフスタイルを変える絶好のチャンスでもある。
地球環境問題について、日本とアメリカは似ているが、狭い国土に集中して住んでいる日本では、1人当たりのCO2排出量はアメリカの1/2(現状)よりもっと減らせるはずである。また、河川の整備にしても、治水、利水だけでなく潤いを与えるなど多くの価値を重視する必要がある。
3.新しいライフスタイルと地域環境づくり
生活者の視点からトリの目とアリの目、個々の見方と同時にトータルの見方、評価の仕方が重要である。土地にはそれぞれのアイデンティティが残っている。これを重視し自然のポテンシャルにあわせて復元しつつ、地域開発、再生を進める必要がある。例えば自然を取り込んだ住宅開発はテーマであり、屋上緑化には意味はあるが、自然循環型の環境とは一寸違うものである。
少子高齢化の中での都市づくりのあり方
少子高齢化に伴う労働力の確保について、①欧州のように外国人労働者を入れる、②北欧のように共働きにより女性に支えてもらうの二通りあるが、家族政策、労働政策、都市政策を②の方向で考えるべきである。そのために、職住近接で共働きでも子供が育てられる環境づくりが重要で、安全で、アイデンティティがある都市に変える必要があるが、大阪も根本的なところが空洞化している。一方、郊外の生活は都市生活に比べ文化・遺産等が単調であり、魅力が小さい。
都市について大阪でもコミュニティを循環して走るバスが登場した。ヨーロッパでは小さな車がカッコいいとされている。我が国では、歩道を自転車が走るが、これは凶器であり大きな問題である。
Q&A
Q:人間だけが。子供を産んだ後長く生きられるのは、文化の伝承のためともいわれるが?
郊外にはリタイヤした人材がプールされている。個人差はあるが年齢差別禁止法はないしパワーを活かす必要がある。現状は現役世代が過重負担になっており、平準化が必要。
Q:ライフスタイルを①人生の中で、②地球環境の中でどう考えるのか?快適性の追求しすぎが問題ではないか。
「人間」は自然の一部であるが、自然にアクションをかける存在と見ている。一方、我が国の人口はあっという間に1.2億人になった。少子化は、制度が整えば空間的ゆとりを産みプラスの面もある。日本は女性の50%しか働いていないのに出生率が低いが、北欧では、80~90%も働いているのに出生率は高い。社会のシステムや住宅・都市構造を変える必要がある。また、①、②どちらも行き着くところは同じ「職住近接の都市づくり」と考えている。新しいまちづくりはまず交通機関の整備と思う。
vQ:女性の職場進出は分かるが、女性のしんどさを解決する方法は?「失われた10年」は終身雇用の破綻に繋がった。マイバッグ運動など主婦の日常活動が手ごたえのあるものにするには?
問題は一杯ある。税制の他、技術士など資格を持った人が仕事しやすい枠組みを作るなど。女性は、はじめから組織から排除されてきた。買い物については、デポジット制など環境にいい事をしたら得をするようなソフトなしくみづくりが必要。
マイバッグ運動では対応できない。システムの遅れをどうするのか。個人的には政治課題になりかかわりたくないが。
あらゆるところにシステムが必要。かなり大幅な変更が必要で、まず合意形成である。これは政治の問題になるが、社会的発言力、パワーになるかがポイントで、避けて通れない。例えば、介護の問題について、以前、嫁が24時間面倒を見るのが当たり前の時があったが、システムが絶対必要と思い、ここから活動を始め、デンマークでの調査後10年かかって介護保険が実現した。また、自然再生の事業を進めるためには予算どりが必要である。
潜在ニーズの発見⇒ニーズの顕在化(言語化)⇒課題を共有化⇒課題の社会化⇒政策課題に乗せる⇒意思決定に関わる
Q:少子高齢化の中で大学卒業者の1/3はフリーターと聞くが、これでは介護保険が支えきれない。
介護保険はいずれ修正が必要になる。フリーターが多いのは日本が豊かだからで仕事を通じて自己実現をしていくことになる。仕事が細分化、専門化する中でシステムが必要になる。
Q:親と離れたところで暮らしているが?
ライフスタイルも違うし、同居は難しい。スープが冷めない距離に住むのが良い。
コメント
女性の立場への理解がないと21世紀は動かない。また、行動する技術士として実践的な取組み事例を交えての講話には迫力があった。
講師プロフィール
1947年大阪生まれ。京都大学大学院で博士号取得。奈良新聞記者、奈良県庁等を経て現在、京都女子大学現代社会学部教授、農学博士。環境開発論、コミュニティ論などを担当。国や地方自治体等のまちづくり、地域活性化、環境対策などで多くの委員を歴任されている。