「21世紀の技術と社会システム」
鈴木 胖 氏 (姫路工業大学学長、エネルギー・資源学会会長)
1.21世紀社会の2要件
「日本が世界に誇れる技術がなくなった」と様々な技術分野で聞かれる。日本人が自然への畏敬の念を忘れてしまったことが要因であり、21世紀は以下の2要件の同時成立が大前提と考えられる。
- 持続可能な発展(Sustainable Development)
- 自然保護 (Nature Conservation)
2.人類の発展と自然との関わり
「人類の文明は歴史上まれに見る安定な気候のもとに築かれた。」人類は自然の循環に依存した社会の中で極めて緩やかな発展を遂げてきた。しかし、18世紀後半、イギリスで起こった産業革命は、工業生産性の急激な上昇と人口の爆発的な増加、そして、化石燃料への全面的依存を促した。その結果、人類は循環型社会から離脱し、膨大な廃棄物(エネルギー)を自然に放出する社会となったが、このことは文明の大前提であった「安定した気候」を乱すことになった。今、大問題の「地球温暖化」はその一例であるが、すでに、不可逆過程に移行して(取戻すことのできない段階に)いるとも考えられ、人類文明の危機を自ら招くこととなった。一刻も早く、人類は今までの歴史における過ちを認識し、循環型社会への復帰(自然への入出力を最小限に抑えること)に積極的に取り組むべきである。
3.循環型(クローズドシステム)社会の実現に向けて
循環型社会の実現には、技術的アプローチと法整備の両面から進めていくことが必要である。
@技術的アプローチ:エネルギーの有効利用、化石燃料から自然の力の利用 促進、リサイクル/グリーン購入の徹底
A法整備:基本法制定(環境基本法→循環型社会形成推進基本法)、廃棄物 処理法、資源有効利用促進法、(個別物品)リサイクル法、グリーン購入法 上述した21世紀社会に受け入れられる物作りとは、基本性能&価格に加え、情報装備・安全性・人間工学や環境性能を重視した物作りのことである。例えば、CO2回収型発電システムのような自然への環境負荷のない工業システム等である。
4.地球温暖化対策への最新の先駆的な取り組み事例
@デンマークにおけるCTR社の地域熱供給
コペンハーゲンを中心とした50km□の範囲では、熱源となる工業施設と熱消費体となる都市施設(住居等)間を広域熱輸送パイプライン網で繋ぎ、80%に及ぶ高効率で熱供給を行なっている。
Aフィンランドにおける森林資源の高度利用
森林資源としては、今まで活用されることのなかった木屑(Bark)を高い生産性のもと、収集・圧縮・搬送する機械システムを開発し、エネルギーとして利用している。国家政策のもと、化石燃料からの脱却を図っている。
BデンマークにおけるHRWF(Horns Rev Wind Farm)の風力発電
海上に160MWの風力発電設備(風車:2MW×80基)を建設し、国家政策として、開発プロジェクトを立ち上げ、極めて安価(約300億円)で短建設工期な発電システムを実現した。
Q&A
Q:CO2を出さないコージェネシステム(特許)について、回収したCO2は?
貯留が最も経済的。CO2について京都で国際学会があるが、半数は貯留の技術開発である。
Q:「選択と集中」の重要性は分ったが、エネルギー開発は?
原子力は、元々海外の技術である。今後は自然エネルギーの開発が重要。日本は太陽光発電が先行しているが砂漠で発電し、水素に変換して輸送するなどの検討も必要。
Q:デンマークの風力発電施設について、環境アセスメントは?
詳細にアセスをやっている。例えば鳥.アザラシ、底生生物への影響など。
Q:風力発電の台風対策は?
強風になると発電をストップさせる。メンテはヘリコプターで現地へ移動して行なう。
Q:日本ではコージェネの系統連携などで大変手間がかかる。例えばエンジンのテスト時など。
優遇措置が具体化している。また、北欧の3国は系統連携ができ、デンマークの風力発電は、夏は微風で出力低下するので、スェーデンから電力供給を受ける。
Q:超伝導については?
世界レベルの競争である。省エネについては徹底した建物管理などで相当進めることができる。
Q:RITE(京都にある)の研究について?
エネルギーシステムの研究は世界的なレベルである。貯留や、植物での固定などもやっている。
Q:CO2の海底固定は?
プロジェクトはあるが、なかなか難しい。ジャイアントケルプの育成など基礎研究が必要。
Q:大型プロジェクトについて
パイプラインなど総コストは日本では10倍近くになる。コスト、過剰スペック、効率などに問題がある。また、海外ではオペレーションコストも低い。
Q:原子力の推進のために放射能の半減期を短くする研究などは?
ガンマ線を用いて高レベル放射性廃棄物の長寿命核種を半減期の短い核種や安定核種に変換する研究が行われている。
Q:人工光合成の可能性は?
詳しくは知らないが、光合成の効率は1%レベルであり、難しい。
Q:持続的な発展について?
環境問題に30年携わっている。当初資源は有限などの概念はなかったが、現在は当たり前になってきた。また、家電リサイクルなど良くやっているし自動車の廃車リサイクルまでできた。
Q:社会システムの動きが悪いようだが?
国の縦割り行政などの問題がある。しかし、各種リサイクル法は、縦割りで整備が進んだ。
Q:産官学連携と大学の役割について?
独立行政法人化などの動きがあるが、行動、あり方について変革の節目ではある。
Q:日本では、メディアと市民の反対で、空港建設など大型プロジェクトが進まないが?
空港の騒音は対策するのが基本。空港はどこの国でも反対があり時間をかけて進めている。自分の街という意識で議論を進めることが重要である。成田は強圧的であった。
Q:交通システムについて?
車が優先過ぎる。オランダなど自転車道や駐輪場が整備されている。
コメント(服部信美技術士記)
20世紀末、日本の物作りは「How(どのように)」から「What(何を)」に視点を変えるべきだと声高に叫ばれた。本講演の根底に流れる意識は、さらに一歩踏み込んだ「For What(何のために)」という視点で物を視ることの大切さではなかっただろうか。今や人間社会は物質的には十分成熟し、自分達が存在する社会の未来永劫にわたる安定性を訴求し始めていることを、物作り技術に携わる者は深く心に刻み、21世紀の循環型社会を支え、人類の持続的発展を促す必要がある。
講師プロフィール
1934年広島県生まれ。大阪大学時代から30年にわたりエネルギーや環境問題をシステムとして捉え、京阪奈学研都市や関西新空港の地域開発計画など産官学連携のコーディネーター役として大きな貢献を果たされてきた。