「地球環境問題とエネルギー政策」

中上英俊氏住環境計画研究所

基調講演(2002.6.11)より

毎年開催される大阪ガスの環境シンポジウム。本年は「家庭・オフィスにおける環境問題とライフスタイル」のテーマで鰹Z環境計画研究所中上所長による豊富なデータを示しながらの基調講演とパネルディスカッションが行われた。

COP3「京都議定書の目標達成には大きな努力の積み重ねが必須

地球温暖化に対するCO2の寄与度は、世界では64%であるが、わが国では94%と圧倒的に大きい。COP3では基準年度が1990年であるが、東西ドイツの統合による削減効果が織り込まれるなど、EUや米国にとっては比較的有利な数値(2010年でマイナス8%及び7%)であり、一方、わが国のマイナス 6%は相対的に厳しい数値である。

わが国は目標達成のためにフロンによる増大、森林吸収、CDM(途上国の支援による削減)や排出権取引、革新的な技術導入などを考慮すると、CO2排出目標を1990年レベルにするもので、現状の増加分、経済成長による今後の増加相当分を考えると実質20%程度の削減が必要。

目標達成のためには「王道はなく、小さなことの対策の積み重ねが重要」である。

省エネ政策として規制も必要

エネルギー消費を産業用、民生用、運輸用に区分すると、2:1:1のシェアを占める。それぞれの対策により原油換算5700万klの削減が必要である。エネルギー消費の1/4を占める民生用は、家庭用と業務用に分かれる。家庭用については、機器にトップランナー方式を導入するなどで対策を進める。業務用については、ビルや営業用などの分野で、テナントビル、ホテル、レストランなどエネルギー使用の量や形態など大きな幅があるが、適切なデータベースの整備が必須である。

また、住宅やビルなど断熱強化による省エネ基準の見直しが3回行われたが、自主基準であり、10%程度しか普及していないので、規制にまで踏み込まないと実効性が期待できない。

新エネの開発普及により690万の削減計画があるが、統計的にはパルプの黒液、廃材や廃棄物発電など色々な要素が盛り込まれており、いわゆる風力や太陽光発電などのウェイトは小さい。 例えば、3KWの太陽光発電3kWを設置すると年間1000時間稼働相当の3000kWh程度である。100万kWの設置にまで普及が増大すると、巨大な市場になるが、原油100万kl程度の節約である。また、風力発電も日本では、5〜10m/sの風が吹くような適地は少ない。

これらに比べると排出権取引の場合、1〜3万円/kl相当といわれており、より有効である。

家庭用のエネルギー使用、国際比較など

家庭用のエネルギー価格はこの25年間で、現在が実質的に最も安い。、一方、最近の20年で消費量は1.5倍(エネルギー消費単位は5万Ml/年/世帯)に増大した。欧米では安定しており、まるで発展途上国のような状況である。 国際的に比較すると、暖房は少なく、給湯は多い。.また、照明等の電力使用が多く、文化・習慣が違うことを理解することも重要である。

省エネ対策はコツコツと積上げること、データベースに基づいて検証しつつ進めることが重要で、ボランタリーではできないと思う。例えば、EUでは、停まっているタクシーはエンジンを切っており、エンジンを停めないのは道徳的におかしいという意識がある。

待機電力での電力使用は、電気代1万円相当の400kWh/年/世帯であり、主婦にとっては大きなインセンティブになる。その中でビデオ、オーディオ、ガス給湯器などが6〜8W/台と大きい。新しい器具では、トップランナー方式の適用、対象機器の拡大について待機電力対策を含め省エネ性の改善が進んでいる。

コメント

家庭用レベルでも省エネルギーを進めなければならないことをデータを下に分かりやすく説明してくださった。

講師プロフィール:中上英俊氏

1945年岡山県生まれ。1973年に東大建築学の博士課程を終了し、住環境計画研究所を創設。住宅エネルギー問題についてわが国の第1人者であり、政府関係の委員も歴任.。

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