自動車のエネルギー・環境技術開発の方向性

環境問題、CO2問題の重要性はいうまでもないが、自動車メーカーは販売拡大を図り、利益を確保し、事業の継続性・発展を考えるために世界規模で戦略展開を進めている。 つまり、地域ごとの特性を踏まえつつ、共通の技術基盤を拡げていくことになる。国内での需要は減少しつつあり、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興国市場での需要拡大には、インドのタタ自動車が今年度30万円の乗用車を販売する計画など低コスト対策が重要なテーマになる。一方ではCO2の排出抑制対策と課題が山積みである。

環境問題は技術の理解とともに、世の中の動きを先取りしたマーケティング、マネジメントなどの理解も重要である。ある意味では推理小説の犯人探しのような知的なゲームであり、これには技術に対する感性がないと先の見通しが立てられない。

トヨタのハイブリッド車戦略

1997年にプリウスが販売を開始した。コンセプトは「燃費は従来車の半分、排ガスの清浄性は1/10」であった。それから10年、トヨタのハイブリッド車の累積生産台数は100万台を超え、年間生産台数の5%を超えるまでに育った。ところが、次世代の省エネ技術、ハイブリッド車はホンダが少し販売しているが、他のほとんどのメーカーは追随できていない。これだけ技術や情報が一般化した社会で、市場性のある価格、信頼性のある技術システムができないのは不思議な現象である。

欧州の自動車メーカーは、ハイブリッド車は日本の東京や大阪など超過密な都市で優位性のあるニッチな領域の車と位置づけて、エネルギー効率がガソリンエンジンより20%程度高いディーゼル車を本命として、ハイブリッド車への取組みにそれほど熱心ではないようだ。

一般には知られていないが、排ガスの清浄性1/10について、この10年間でわが国のガソリン車はすべてのメーカーが開発対応し、圧倒的多数の車が超低公害車のラベルをつけて、販売されている。コンピューターによる制御及び、部品の加工技術が進展したからである。

排ガスの浄化は、技術の基礎を理解しておれば容易に予測できたのである。

技術開発:選択と集中か全方向への目配りか

CO2削減のためには、省エネ化、バイオ燃料などによる脱化石燃料化などが必須である。電気自動車はエネルギー効率が高いから、本命視されているが、燃料電池車は、おそらく我々の生きている世代ではメインになりえないほど課題が多い。技術開発の可能性について不透明な要素が多いため、各メーカーは、全方向に対応すると意思表示している。リスク分散の観点からは正解としても、選択と集中が企業戦略の基本であるとすると、これも不思議な現象である。

トヨタはハイブリッド車の次の展開として、家庭用の電気コンセントから充電できるプラグインハイブリッド車の発売を2010年と発表した。携帯電話などに使われるリチウムイオン電池によるバッテリー単独で13km走れる車の開発である。バッテリーをリーズナブルな価格で作るための技術開発目標と、使用パターンを分析してユーザーを満足させうるという見通しを持ったのであろう。勿論これがゴールではないが、ドイツのメーカーは都市間の長距離移動がニーズであることから、プラグイン車の走行距離は100kmを目標にしているという。GMもプラグイン車の開発、販売計画を発表したが、詳細のスペックは明示されていない。

自動車に関する情報は非常に多いが、この10年間の活動、販売台数、利益率、世界展開状況を見ていると、トヨタの戦略、目標はより実現性の高いシステムと考えられる。

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