トヨタのものづくり、人づくり「トヨタの上司は現場で何を伝えているか」
若松義人著PHP新書より。(2007.3月発刊)
トヨタ(TPS)方式とは、豊田佐吉氏や創業者豊田喜一郎氏(佐吉氏の息子)から始まり、大野耐一氏(元副社長)や張富士夫会長などを通じて現在に至る「現場現物」、「改善」「人づくり」等である。著者はトヨタに入社以降、「トヨタ方式」を実践してきたもので、その取組みを紹介している。
改善について
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後工程が必要に応じて前工程から引き取る「後工程引き」で作り過ぎない仕組みである。
→カンバン方式は手段であり、「目的と手段の混同」はするな。
- 改善は@作業改善、→A設備改善 →工程改善 設備も「現場の知恵をつけて」使う。
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「ムダ取り型改善」と「課題解決型改善」がある。
→3分間で金型の段取り替え→内段取りを外段取りに追い出す。→刃具や金型交換はワンタッチ。
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「絶えざるベンチマーキング」自分より優れた相手と比較、分析し差を詰めていく改革手法。
GMやフォードをベンチマーキングし、一方で失敗も学ぶ。失敗のレポートを書いておく。
- 「とにかくやってみろ。意見が二つでたら、両方をお互いに一日ずつやってみろ」(大野)
- 「できない理由」は経営者にとって「クリアすべき課題」→「できる理由」にかわる。
真の原因追求による改善
- 「『なぜ』を5回繰り返せ」:真因に近づく。応急処置では同じことの繰り返し
- 「問題があればすぐにラインを止めて真因を追究して改善」「先延ばしするな」「やり仕舞い」
- 「なぜ糸が切れるのか」を追求し「切れない糸」づくりを考える。→止まらないラインづくり。
- 「失敗のルール」:@失敗したら自分で直す。A同じ失敗は二度しない。
現地現物、横展開
- 優れた改善はすぐに「見てきたか」「見てこい」→「知恵の数だけ競争に勝てる」、「横展開」の強さ。
- 「視える化」(情報を視覚的に共有することで組織を強化する手法)
- 「硬くなりがちな頭に創造のムチを当てつつ、今日も生産現場を歩く」(大野)。過去に頼るな。
- 実行第一主義。「まずやってみろ」(豊田佐吉、喜一郎)。技術者は「実地が基本」(喜一郎)。手を汚さないと仕事ができない。
- ライン長はできるだけラインに入らず、外で見る。→改善点を見つけ改善。現地現物+根気
整理整頓と業務の標準化
- 「整理と整頓」を重視する。5S:「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」
- 整理整頓がおろそかでモノ探しに無駄な時間を費やすな。「探す、運ぶは仕事にあらず」
- 短い資料づくりへ:「紙量」、「死量」では時間と労力がムダ。 →A4一枚かA3一枚
- 「ムダは思い切ってカット。基準はお客様の役にたっているかどうかだけ」業務を標準化して普通の人でもできるようにする。営業でもお客との接触から成約に至る過程を標準作業にできる。
- 可能な限り個人差や感覚差が出る言葉は避け、急所を具体的に言う。「標準」と「具体策」
人づくり、チーム力
- 自分の部署だけでなく「全体を見るセンスが必要だ」(張)。Ex.工程改善が進めば他を手伝う。
- 経営者感覚を持った「ライン経営者」になり、部下を育て、改善を重ねる。:生涯改良(佐吉)
- 「指導してやろう、教えてやろうと考えるな。現場の人たちの知恵を引き出すことが大切(大野)
- 現場の人が自ら知恵を出す。「知恵を出すこと」「知恵の出る人間を育てること」
- 「指示よりうまく」:@最初は指示どおり→A方向だけを示す→B答えにアドバイスだけ送る。
- 教育は知らないことを教える。知っていることを繰り返し練習し、身体で覚えるのが訓練。
- 「人は困らないと知恵が出ない」(大野) 人づくりは「30年単位」。強い思いを持ち改善を続ける。
- 「いいモノをつくるには社員一人ひとりのやる気とチーム力が必須」(張)
- 人を生かす。生かしきっていないのは経営者、管理者が悪いという気がする」(張)
- 「人を大切にする」:海外事業展開でも同様
- 「仕事は現場の人に対する粘り強い理解と説得(納得)であり、権限や権力ではやらない(大野)
- 離れ小島を作らない。→助け合いができないから。
危機管理
- 「内製」を重視する。→生産能力の余力の有無に差が出る。(大野)
- 「問題があって代案を考えないのは『越権行為だと遠慮する』のでなく責任転嫁である」(大野)
- 「ムダはあってもよい」:燃料電池車の燃料選定について決め打ちは危険。
- 「危機はチャンスなり」難局だからやりがいがある。(大野)ex.オイルショック時
- 震災時:ラインを止めた。毎日が危機管理。数十秒の停電でも全ての点検後ラインを動かす。
- 基礎工事を早急に修復しておく。順調な時に「日々改善、日々実践」(大野)
その他(経営等について)
- 「停滞は後退と同義語だ」絶えざる技術革新と業容拡大が必要。(張)
- 「創意工夫」制度:一枚の紙にまとめて提案。
- 講習などをうけて「役に立った」「よくわかった」→仕事に「どう活かそうとするか」が重要。課題のない報告だけではだめ。
- モノの値段はお客様が決める。売値−原価=利益。外注先から安く買うのではなく、安く売れるように改善に協力。
- ハウスメーカーの例:標準作業に基づいて作業を進める。→材工分離への移行が必要。無理をせず粘り強く実施した。