EA21審査人HG会の設立から解散まで  

EA21ができた当時の活動

 エコアクション21(以下EA21という)は中小企業にも取組みやすいシステム作りをということで環境省が作った環境マネジメントシステムである。気候変動枠組み条約が1992年の地球サミット(リオサミット)で批准された。地球温暖化防止問題が最大の地球環境問題になるとの認識の中で、ISO14001環境マネジメントシステムが国際規格として策定がはじまり、1996年に規格ができたが、これと同時期に環境省のシステムもできたのである。

 しかしながら、当初のシステムは企業が取組むためには制度・体制も不十分で、普及には至らなかった。その後、パイロット事業を経て2004年にEA21の制度が全国的にスタートした。

@組織の核は3つ(中央事務局、地域事務局と審査人)

 中央事務局は環境省の外郭団体である(財)地球環境戦略研究機関(IGES)の中にでき、ここで、システムの実施・運用を統括する。中央事務局の傘下に全国で47(2009年8月現在)の地域事務局ができ、普及活動を推進する。

 審査人は環境問題及びマネジメントシステムに精通した者から3段階の試験を経て資格が付与される。審査人は一般に地域事務局と連携してEA21の普及活動に係るとともに、受審事業者に対しては審査時に指導・助言を行うことが求められるというユニークな仕組みである。また、環境省が作った環境カウンセラー(事業者部門)であれば、受験資格が認められている。

A審査人HG会ができたのは

2004年に制度が立ち上がったとき、兵庫県下では「NPO環境カウンセラー会ひょうご」及び兵庫県の外郭団体である「(財)ひょうご環境創造協会」が母体の二つの地域事務局が設立された。

 設立当時から、二つの地域事務局はコミュニケーションが良くなかった。私は前者の理事をしていたことから、企業向けセミナーの共同開催を二つの地域事務局に働きかけたがまとまらず、両者は競合する関係が続くことになった。

 そこで、兵庫県在住の審査人が集まった機会に懇親会を行ったところ、自然発生的に審査人会を作ろうということになり、約30人が参加してスタートした。その目的は次の二つである。

a)審査人のスキルアップを図ること

b)審査人間のコミュニケーションを図り、EA21の普及活動に資すること

なお、入会は2名以上の会員の推薦によるものとした。

BHG会の活動

 HG会は当初、兵庫県下の審査人が中心であったのでひょうごの会としたが、その後、地域を離れて活動することも多くなり、HG会(ハイグレードの会)とした。

 会の運営は会長代行(その後会長)としての私と故有光事務局長(神戸製鋼所OB,行政書士)の他複数の幹事で行うこととし、毎月幹事会と例会を欠かさず延べ100回近くの会合を行った。この財産は大きい。

 しかしながら、兵庫県下でのEA21の普及は芳しくなかった。二つの地域事務局の狭間で普及活動については制約が多かった。たとえば、地域事務局と連携して事業者向けの説明会をしても出席企業へのフォローを行うにしても、守秘義務の観点からか、地域事務局から出席企業にメンバーがコンタクトする許可を得られず、歯がゆい想いをしたこともある。

2 自動車整備事業者に対する審査

 自動車整備事業者は全国に1万社もあり、環境問題とのかかわりが深い。ASKnet(アスクネット:全国自動車整備事業環境団体)という団体があり、損害保険会社が力を入れて事業者の支援活動を行っていたが、2003年のEA21パイロット事業に全国の12事業者が取組みに参加した。その後、ASKnetの会員に対して同会のM顧問が地域ごとに整備技術研修、経営研修とあわせ、EA21の集合研修を実施し、自動車整備業者によるEA21の審査案件が100件以上、EA21全取得件数の5%に増加した。この中で、M顧問の意向を受けてHG会の中から審査を担当する審査人を推薦し、従業員数10人前後が多い中小事業者の審査を担当することになり、事業者の信頼をかち取るべく指導・助言を行うようになった。

M顧問の経験によると、事業者に過大な要求をする審査人も見られたことから、HG会会員に対して審査を依頼する件数が増加してきたのである。

@画一的な取組みが問題となった! 

 自動車整備業の集合研修はEA21の審査人ではないM顧問が、自動車整備事業者(主には車検検査の代行ができる指定事業者)に対して文書や記録の雛形を提供し、経営指導、技術指導をしながら

1年間近くにわたる取組みの中でEA21システムを構築・運用していく。この仕組みで各地の地域事務局で審査を受け認証登録が進んだが、中央事務局の審査で2007年末に問題が顕在化した。

 地域事務局を通して、なぜ画一的な文書や記録になるのか、それが、事業者の実態を現わしていないのではないか、PDCAを回す取組みになっていないのではないか、という問題提起があったのである。

その後、2008年2月に、中央事務局からこの問題に対して、審査人として適切な審査を行っていないことが問題であると考えているとの連絡があった。このため、審査進行中の案件については数10項目にわたり、事業者に是正をしてもらうとともに、審査に際し、説明、フォローアップを実施することにより対応をした。このことは、中央事務局においても評価されている。

A再発防止策について

 自動車整備業界は複数の代理店契約を結ぶとともに、それぞれ損害保険会社が経営指導を行っている。従って再発防止策としては、システム構築段階から集合研修でEA21審査人が指導しながら進めていく方式の「関係企業グリーン化プログラム」の実施が最も有効であると中央事務局の判断がなされた。その結果、本方式に切り替えていくよう中央事務局からの指導が進み、自動車整備業の案件についても当該の損保会社が主催して2008年11月に審査人に対する説明会を実施し、切り替えが進みだした。

一方で、HG会として扱ってきた案件は、画一的な雛形を改善するために、事業者に対して対応を要請していく必要がある。このため2007年末までに審査し、認証登録した案件については、審査を担当していない審査人が地域ごとに分担して説明研修会を実施し、フォローアップを行った。

以上のとおり、当面の画一的な取り組みとして中央事務局がEA21認証・登録制度の信頼性を大きく損なう恐れがあるとした問題に対しては是正処置が行われたのである。


3 審査人である私に対する処分

@中央事務局としてのけじめのつけ方

 中央事務局と倫理委員会は体制維持、権限を持つ側として一体的な運用を図っている面があり、透明性は高くない。倫理委員会としてはEA21認証・登録制度の信頼性を損なう恐れのある大きな問題として、中央事務局を含め、関係する地域事務局、及び関係する審査人に対して処分を行った。

10件以上の画一的審査を行ったとして、私は2008年2月の審査人倫理委員会で6名の委員から審議を受け、私が2007年9月〜11月に行った自動車整備業の11社の審査が、下記の倫理規程の3つに抵触するとして3ヶ月間の資格停止の通知が3月に届いた。問題が顕在化してから1年の経過があり、その間色々なやりとりがあったが、この経緯については省略する。

  • 審査人の使命:目的を認識し、職責を自覚し、公正普遍の立場で審査する。

● 審査人の行動規範

    • 専門性を発揮し、かつ偏見なく公正に行動すること
    • 専門性及び事業者からの信頼を増進すること
    • 特定の利益を代表せず、中立であり、独立していること


 処分通知が届いたのは、たまたま該当する対象事業者の中間審査等の時であり、5社の経営者にお会いした。私はとても上記に抵触するような行為をしたとは思えなかったので、その旨を伝えた。経営者の方々は全員、私が倫理規程に違反するとは思えないと受け止めて意見書を書いて下さった。

また、その他の6社さんについては電話及びメールで意見書の記載をお願いした。そのことを中央事務局の責任者にお会いしたときに伝えたところ、提出予定の弁明書に書くなとメールで強い要請を受けた。理由はよく理解できなかったが、意見書の一部を弁明書に添付した。これが問題になった。

A素早い2段回目の処分

 5月に2回目の審査人倫理委員会開催の通知があり、審議の結果下記の処分通知があった。


処分の内容:EA21審査人登録・資格の1年間の一時停止(H21.7.1〜)と誓約書の提出

1.前提となる事実   省略

2.EA21審査人倫理規程への抵触(H20.7.1一部改正)

●審査人の使命:同上

●審査人の行動規範:C利害関係者から一切の便宜供与を受けないこと

FEA21認証・登録制度の信頼性を向上するよう行動すること

●禁止事項

A報酬及び贈答品等、受審事業者等よりあらゆる種類の便宜供与を受けてはならない。

 細かい点は省略するが、事業者の経営者にお会いして、事業者さんの意見・考えを書いて頂いたことが、審査人として便宜供与を要請し、便宜を受けたことになると判断された。審査人は、警察官や検察官のような立場であり、事業者に意見書を書いてもらうことは許されないとされた。EA21では審査時にコンサルを求められており、事業者さんと目線を同じにし、事業者さんがよりよいシステムを構築し運用できるように努めていくことが重要であると認識していたため、警察官や検察官のような立場では仕事はできないし、誓約書の提出は意に反するし、審査人資格の返上を申し出た。

C HG会の解散へ

HG会は有意義な活動をしてきたと認識しているが、私が資格停止の処分を受けたことから、会長を辞任することを幹事会に申し出、総会で承認された。

@倫理委員会のHG会幹事等関係者に対する処分

HG会幹事等で2007年までに自動車整備業に対する複数の審査を担当した9名に対して、私の第1回目の審査人倫理委員会での処分通知が決定した後に、中央事務局責任者によるヒアリングがあった。その結果の報告を受け、倫理委員会は9名に対しては厳重注意ということで「倫理規程に違反しないように努める」旨の誓約書を中央事務局に提出させたと聞いている。中央事務局及び審査人倫理委員会は事実を確認するため、関係者に対するヒアリングの実施後に、私の処分を決定するのが手順だったと思う。

 第2回目の処分通知が来た5月に私は審査人資格を返上する旨を決断した。HG会幹事会で伝えたところ、審査人でなくてもコンサルティング等でEA21に係ることもありうるので、会則を改定とともに、私がHG会会員として残ることが総会で承認された。

AHG会の解散へ

HG会としては新任の会長代行が、関係する事務局等に挨拶、説明に回った。同氏が中央事務局を訪問した時、@会としては内規廃止等のみでなく「けじめ」をつけてほしい、A今後は地域事務局と連携を取りながら審査人の力量向上・普及活動を進めてほしい、との意向が伝えられたという。

また、HG会活動の中で大きな位置づけであった自動車整備業に対する審査案件は地域ごとの審査人が担当するなど相当に制約を受ける見通しになった。今までのスキルアップ、コミュニケーションのネットワークなどはHG会を解散しても個人的なつながりの中で活用できると考えられる。幹事会、例会等で討議が重ねられ、今回の一連の流れを受けて、今後は審査人個人として地元を中心に普及活動を行っていくこととし、8月に開催した臨時総会でHG会解散が決議された。

丸4年間、多くの方のご支持・ご支援を受けてHG会の活動はそれなりに意義深いものであった。今後のEA21の発展に繋がり、元会員各位の今後の活動が社会的に評価されることを願っている。

私自身は、審査人倫理規程に違反するという不本意な処分を受けたが、中央事務局や倫理委員会の考え方とは、すれ違いの感じを強く持っている。今後はEA21を含め、ISOなどの審査業務は行わず、技術士、コンサルタントとしての活動の道を拡げ、残された人生を豊かに生きるとともに、社会に貢献できればと願っている。

ピーター・ドラッカーのことばに、「人は自分の価値感に従い、自分の強みで社会に貢献する責任があり、それが本当の幸せなのだ。」とある。この考え方が、「経営の哲学」と呼ぶ「目標と自立によるマネジメント(目標管理)」であり、今後の行動のよすがとしたい。

本顛末をまとめることで、私自身の現時点での総括としておく。

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