地球温暖化問題への積極的な対応を (09年8月)
「日本版グリーン革命で経済・雇用を立て直す」という本が4名の共著の新書版が出版された。欧米では中長期に向けてグリーン・ニューディール政策が走り出したが、雇用創出と環境・新エルギー政策を結び付けた政策展開が日本にも必要である。
グリーン・ニューディールが求められるのは? 吉田文和氏(北海道大学教授)
2008年秋のリーマンショックは100年に一度の金融経済危機といわれる。グリーン・ニューディール政策はこの問題に対しては対症療法的な効果であるが、「100年に一度のパラダイムシフト」が起りつつあり、環境・経済・雇用問題を解決するチャンスと言える。
その主役は自然エネルギー(太陽光、風力、バイオマスなど)であり、わが国の普及率は1%以下であるが、環境政策と組み合わせて欧米では大きく進展しつつある。
社会経済はBRICsの参入 →市場での低価格品の増大 →ワーキングプア、非正規雇用の増加、格差の広がりを起こし、わが国では年収200万円以下が1700万人にも達するという。一方、過剰資金の肥大化がIT化、グローバリゼーションの中で金融危機を生んだ。
グリーン・ニューディールは2008年英国での政策提言が始まりである。1980年代後半から「地球安全保障」と言う考え方から「持続可能な発展への流れがあり、1989年のIPCC報告、1992年のリオサミットを経て、環境と経済・社会の持続可能性を求めることとなった。EUだけでなく米国でも同年に「グリーン・リカバリー」と言う提案があり、オバマ大統領はこれを積極的に推進しつつある。
CO2削減の中期目標推進のためには、まず理念とビジョンが必要である。
環境税、排出権取引はグローバルスタンダードになりつつある。北海道では間伐材の利用や風力の利用、交通インフラの整備、家電等のリサイクル・リユースなどの取り組みも見られるが、ビジョンをつくり基準を明確にして効果的な投資を進める必要がある。
日本での産業の中心は自動車とディジタル機器であるが、日本国内の生活の質を向上させるために、日本版グリーン・ニューディールを実りあるものにするために、持続可能な環境・経済・社会を築き、日本のグランドデザインを描く必要がある。今問われているのは、開発と環境保全のバランスをいかにコントロールするかということである。今回の世界不況は人類が知恵を出し合って、問題を解決すべき時期を迎えているのである。
グリーン・ニューディールで経済・雇用を立て直す 飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所)
グリーン・ニューディールの基本的な方向は金融危機、気候危機、エネルギー危機への対応であり、自然エネルギー、エネルギー利用の効率化、そのためのインフラ整備であり、オバマ大統領の言うスマートポリティクス(賢い政策)である。世界的にはこれらへの投資はGDPの1%をあてることが妥当とされている。そして、即効性より持続的な構造改革が重要である。
国際自然エネルギー機関「IRENA」は2009年1月に設立した。米国では2012年までに自然エネルギーによる電力を12%以下に、2020年までに25%以下に、そして今後10年間で500万人の雇用を創出し、2050年には温室効果ガスを80%削減するとオバマ大統領は景気刺激策を示した。
風力発電は2008年に830万kWも急増し、雇用も増大した。電力生産減税を3年間延長し、政府が債務保証をするので、20年間売買すると建設費用を借りても元が取れる。太陽光発電については、カリフォルニア州では1kW当たり30万円補助を出して普及促進を図っている。
EUも自然エネルギー開発、排出権取引のオークション制への移行、高圧直流送電網の整備などを推進している。自然エネルギー事業の成長率は年50%にも達しており、今後年30%以上が可能であり、10年後には10倍にも増加が見込まれる。20世紀は自動車の世紀であったが、21世紀は自然エネルギーの世紀といえる。自然エネルギー産業の急成長は目覚しく、スペインやデンマークの企業が台頭し、EU、米国、中国、ロシア、インド、ブラジルなどの伸びを見ると、日本は取り残されている感がある。
グーグルの参入によりスマート・グリッドという4つのオープンシステム(インターネット、電力ネットワーク、分散型エネルギー技術、オープンな電力市場)の統合による電力の新しい需給システムが出来上がりつつある。その中には電気自動車を蓄電池として送電ネットワークに組み込み利用するシステムを含み、新しいイノベーション領域が生まれると考えられる。
自然エネルギーは雇用の質も高める。ドイツ、スペイン、米国の雇用増の実績が現実を変えつつある。日本の行政は省庁間の対立や業界との癒着構造などがあり、一方で原子力問題についての電力業界との体制は、自然エネルギーを議論しにくい構図がある。
自然エネルギーや再生可能エネルギーの普及への政策について、国際的な専門家コミュニティがあり、欧米の知識人が共有している「環境ディスコース」という知の共通基盤が理解できる専門家、研究者が日本には非常に少ないので、欧米から見ると日本の主張は世界には唐突で奇異なものに映る恐れが強い。もっと世界に目線を広げて活動する必要がある。
そのためには若い人や民主党の政策に期待することになる。また、地域の変化に期待することも重要である。例えば東京都は「再生可能エネルギー戦略」を定め、2020年までに東京のエネルギー利用の20%を自然エネルギーに転換する計画を定めた。たとえ小さくても現実の変化を起こすことが、世界から遅れてしまった日本の進むべき道である。
雇用創出を目指すグリーン・ニューディール構想 筒井信隆氏(民主党緑の成長戦略調査会)
グリーン・ニューディールは文明史的な転換が必要な時代の要請であるとの認識が必要である。
この理念を共有し、250万人の雇用を創出する政策を民主党の担当として検討してきた。
「バイオマス文明」は1986年頃から考えている社会のあり方であり、地方の衰退を止める役割りがある。森林利用を促進するなどによりバイオマスコンビナートを作りバイオマテリアル事業を推進し、地域分散型の社会を目指す。例えば新潟県上越市ではバイオビニールを作る会社があり、ビニールのゴミ袋などの利用にとどまっているが、可能性がある。また、生ゴミや下水汚泥から燃料として活用している例も見られる。
減反田で多収穫米を作りバイオメタノールを作る取り組みも可能性がある。現在は石油業界が反対し、ガソリンに3%混合までしか認められていないが、世界の動向にあわせるのが方向である。一方、農水省の補助金を得て木屑からメタノールと水素を作る取り組みなど、エネルギー源の多様化に向けた研究取り組みが進んでいる。
まず、CO2の中期削減目標を決定する必要がある。民主党は2020年に25%削減、2050年に60
%削減目標を提案している。IPPの報告(先進国は25〜40%の削減)やドイツ、英国、米国などの2050年に80%削減目標を表明している。このためには市場原理に任せるのでなく、新しい産業の育成のため、政府が適切な役割りを果たす必要がある。日本はまだ、目先の対症療法に留まっている。
再生可能エネルギーの具体的な導入目標として2020年までにフランスは23%、英国も総電力量比の30〜50%の目標を掲げている。わが国も再生可能エネルギーの10%削減を目指すべきである。間伐材を使ったバイオマス発電の普及、太陽光発電、風力発電なども大幅に増やす必要がある。また、米国の「スマートグリッド」と呼ばれる送電網の整備のような取り組みも必要である。エコカーの比率アップ、断熱性能の高いエコハウスの普及も重要である。
排出権取引、RPS法(新エネルギー利用特別措置法)と固定価格買取制度を太陽光だけでなく風力やバイオマス発電に広げるなどで成果を挙げる必要がある。食料の自給率を上げるため、農業の六次産業化(1×2×3次)などの検討により地域の活性化を図る必要がある。森林整備により木材自給率(20%)を上げ、エコハウスの普及につなげる政策導入も必要になる。
世界は大転換期を迎えており、産業転換を図るため、地球温暖化対策税を導入し、財源確保を図る。米国ではキャップ・アンド・トレードで排出枠をオークションで販売することが決まっている。これらの推進に向けての前提として、環境問題に対する理念を明確にし、以下の対応を図る必要がある。
- 小泉・竹中路線(市場原理に任せる)から脱却し政策導入を図る.
- 官僚主導から政治主導に変え、縦割り行政からの脱却を図る。
自然エネルギーを普及させる仕組みづくり 田中優氏(未来バンク理事長)
ピークオイル問題は既存の資源がピークを迎えたので、今後化石燃料の価格が大きく変動するおそれが生じてきたことである。ドイツは「地球温暖化対策」「技術の革新」「雇用対策」を同時に取上げ、目覚しい成果を挙げている。太陽光発電、風力、地熱発電も含め、EUでは自然エネルギーを現在の8.5%から20%(2020年)に挙げ、」エネルギー効率の向上もあわせ、売上げと雇用の創出を実現しようとしている。
日本では自然エネルギーは現在0.2%、2012年に1.35%と小さく、国内に市場を作らなかった。化石エネルギーは賦存量に限界があり、自然エネルギーに変えなくてはならない。ドイツの環境政策は炭素税で年金保険料の半額を助成する制度であり、5万人の正社員化が進んだ。また、デポジット制度によりペットボトルは普及していないし、太陽光発電では70円/kWhで買い取るので10年間で回収できる。米国も政策を立上げ、「グリーンカラー」という職種を育てようとしている。建設業従業者が育ち、ローカリゼーションで地域の安定化を図りつつある。
自然エネルギーを普及させる仕組みとして次の5つが挙げられる。
- 企業の省エネ推進:「創エネ」「省エネ」が重要。
- ピーク時の消費電力を抑制する方法:フランスや米国で進んでいる。
- 家電の「四天王」を省エネ型に:家庭用電力の2/3を占めるエアコンなどは機器の買換えで改善が進むが、太陽光発電の買取制度は不十分である。
- 省エネ冷蔵庫の買換え融資
- 市民レベルで創エネを:例えば小規模水力発電の利用など
エコハウスについては必ずしも健康で快適ではなく、工夫が必要である。また、平均26年で建て替えることに問題がある。オール電化が進んでいるがCO2排出面では増加するとの試算結果がある。IHクッカーの電磁波の問題もある。電力会社が風力発電電力を買わないことも問題である。革新的な逐電技術が開発されたが、電力会社が積極的でないため、普及が進まない。電力業界の事情が改善され、自然エネルギーの普及に繋がることが求められている。
グリーン・ニューディールの機運が高まっている今、様々な矛盾を明らかにし、変えていくチャンスであり、日本全体が解決に向けて動き出す可能性がある。