「バイオマスタウンの事業化に向けて」 2008年7月
野邑 泰弘氏NPO環境資源開発研究所理事長 大阪市立大学名誉教授(熱工学など)
講師プロフィール
大阪市立大学工学部機械工学科教授として熱工学などを担当され、自治体のエネルギーや資源、環境問題に係る都市のインフラ施設の計画等に委員として参画されてきた。現在、竹資源を有効活用する事業化推進などに取組まれている。
1.バイオマスタウンとは
域内において、広く地域の関係者との連携の下、バイオマスの発生から利用までが効率的なプロセスで結ばれた総合的利用システムが構築され、安定かつ適正なバイオマス利用が行われるか、あるいは、今後行われることが見込まれる地域をいう。
2.バイオマスタウン利活用事業の具体化に向けて
バイオマスタウン利活用事業全体(ソフト事業とハード事業)についての企画を提案し国の審査を通れば公表される。現在は約160件が事業構想のための総合企画が提出され承認されている。ここから詳細な実施計画書の審査が通ると自治体では国から50%の補助金が出るが、事業化に向けては多くの困難さを伴うため、まだ、実現に至ったプロジェクトはない。
この実現のために入り口(とくに原料の安定供給)及び出口(製品が安定して売れること)が重要で、エネルギーと物質利用を工夫して、見通しの立つプロジェクトに仕上げる。
- 竹林の利活用が主対象
@竹の利活用に期待される効果は多様である
わが国では、竹製品の生産拠点が海外に移転したことで、竹林の利用が激減し竹林が荒れて、経済林への侵食、大規模な表層すべり等の危険が増大する。この数10年間で竹林面積は2倍近くの26万haにも広がっている。これを防止・改善するため、NPO法人を立ち上げた。
a)里山の再生(水を生き返らせる)、遊休地の解消
b)地域おこしの実現
c)新たな産業の創出、雇用の確保
d)環境の保全など
A竹林の特性と有効な資源の活用
竹は筍から竹になるまでに急成長し、2ヶ月で十分に生育し、あとは多少の変化はあるが、大きくならず6年くらいで循環し、再生する。これをうまくバイオマス資源として利用し、循環型社会の構築に寄与できる可能性がある。四国や九州の竹林は直径25cmにも育つので、幹元材、幹材、幹末材、枝葉に分けて、有効利用を考えていく。
B竹の高度利用、徹底利用
竹のバイオマス資源が持つ機能を総合利用する、商品の高付加価値化を図る、カスケード利用(純度が下がり再利用できなくなるまで多段階利用する)を検討し、採算性と環境性に配慮したサステイナビリティ技術に挑戦し、リファイナリー(徹底的に使う)の事業化を図る。
- 事業化・実現に向けた仕掛け作り
自治体での事業は第三セクター方式などが、過去に多く取組まれてきたが、成功した例は少ない。これを支援するためのNPO団体、専門家集団を工夫し、目的会社(SPC)をつくり運営することとした。まず、自治体の担当者が目的を持つ必要がある。市長、議会などの了解が求められる。そして、実施計画書を行政と一緒に国に提出し、審査を通すことになる。
- バイオマス工場の企画と実現
@エネルギー利用
エネルギーをカスケード利用するためのバイオマス発電システムを作るには課題がある。日本にはバイオマスを燃料にするボイラの進展が見られない。外国製は高価であり、排熱ボイラの利用を考慮したボイラが開発されつつある。バックアップシステムは必要であり、燃料チップは、市況の変化による価格や入手の安定性が変化するので、エネルギー計画、コージェネシステム作りが大変難しい。
A竹のリファイナリー、徹底利用
竹を徹底的に使うためには、表皮の成分、液の抽出などにより抗菌、殺菌、吸収効果などの利用を検討している。また、パウダー、ファイバー、バンブーファイバーなどにして、建築材(柱、フローリング材、パーティクルボードなど)マテリアル利用を進めていく。
B竹の循環・育成利用
竹林をうまく育林する必要がある。特に入り口側の資源を管理し、持続的適正管理方針を立てて実施するための方策が求められる。
C資金・事業化計画
SPC(目的会社)を作り、国からの補助金を得て事業化を進めるが、お金を集める仕組みづくりが必要である。
3.今後の展望
近いうちに、事業化例が実現するが、全国的にバイオマスタウン構想の具体化が進むことを確信している。利害関係者が多く、事業化実現は大変な作業であるが、自由に発想し、行動することができるので、楽しい仕事である。
Q&A
Q:都市型のバイオマスの入り口は?
→すでにそれなりに廃棄物の処理システムができており、利害がからむので、もっと儲かるというシステムでないと、原材料が集まらない。チップを製紙会社が買ったという例もある。
Q:ボイラについては、40年位前は日本にもあった。しかし外材がらみで消えてしまった。
昔の技術を使うとうまくいかないか?
→その通りである。しかし、台数が少ないので作ってくれるところがない。
Q:都市から出る食品廃棄物を集めて、地方にバイオマス工場を作る計画はあるが苦戦している。
→まず地域の説明会で地元を啓蒙し、その後市町村長を納得させる手順を踏まないとうまくいかない。コンサルタントの立場では難しい。
コメント
先生は大学の時から行政の委員会などに参画され、幅広に活躍されていたが、退官後、新システムの実現に向けて、活躍されているのを実感した。ぜひ、成功させて欲しい。
ところで、本講演は技術士会の環境研究会でお話いただいた要旨であるが、今後は技術士会を中心に新しいホームページ「PE-eco」を立上げて、その中で紹介する仕組みづくりを進めている。