「日本のものづくり」  張 富士夫トヨタ会長の講演より(09年11月)  

(社)大阪府工業協会の創立60周年記念に際し、同協会がものづくり、ひとづくりで活動してきたことから、標記テーマでの講演を聴くことができた。トヨタは現在厳しい経営環境にあるが、グローバル化する経済の中、再びものづくりで立ち直ることを実感できた。

トヨタのものづくりについて

張会長が50年前に入社(東大法学部卒)した当時、社長の石田退三氏や後に副社長としてものづくりを指導した大野耐一氏の薫陶を受けた。自動織機など商売で稼ぐことから、時代の変化の中でこれからはものづくりで会社を発展させる必要があるとの認識であった。

 利益=売価−原価と考えて、原価を下げる努力、言い換えれば原価を押し上げているムダを除く努力を続けてきた。仕事(公定を進める動き)以外はムダであり、これには「手待ち、二度手間、やり直し、不良、運搬、作りすぎ」などがある。

 ムダを取り除くには「なぜなぜを5回(5W1H)繰り返して」対応するが、Wは全てWhyとして、現象→原因→真因という見方で原因の後ろに潜む真因を見つけるようにする。生産ラインは行灯(あんどん)方式として、現場のラインに不具合があると作業者は行灯をつけ、スタッフが真因を追究して原因を取り除く。

 ムダとむだは使い分けており、むだは仕組みのむだとしている。例えば、当初は毎月月末に追い込み生産をしていたが、月初に部品が揃っていないために同じ繰り返しをしており、平準化生産が状態になるまでに時間がかかった。タクトタイムを決めて工程設計すると標準化が進む。大ロット生産から小ロット生産へ、さらに1個流し生産へと改善を進めてきた。

 トヨタ生産方式の2本の柱

@JIT(ジャストインタイム)の「ものづくり」であり、工程の流れをつくり一つずつ作るのである。この方式は当初海外では通用しないのではと思ったが、今では世界20数ヶ国で実施しており、目で見てわかる製造現場作りを心がけている。

A「ひとづくり」であり、これには教育(知らないことを教える)と訓練(知っていることを繰り返し実行させ身に付けさせる)ことである。

 最近、生産台数がガタガタになって見直すと、色々なゆるみが見えてきた。毎年50万台の増産が続いたので、ひとが育っていなかった。設備も同様に外注化でしのいでいた。

 右肩上がりの増産時は量をつくり、利益が上がる。一方、右肩下がりの減産時には、思い切った原価、品質の改善ができるし、ラインをストップさせる場合もプレッシャーが少ない。次の増産時には改善の効果が出てくる。人間の持っている知恵は無限であるが、困らせないと出てこないという考え方である。

グローバル化の中で

現在は、欧米をはじめ、中国やインドなど自動車市場も環境が変わってきている。大型の利益率の高い車ではなく、カローラ以下の小型がよく売れる。また、フォルクスワーゲン、現代(ヒュンダイ)や中国メーカーの台頭が目立ってきた。

 このようなグローバル化の流れは止まらない。このためにどうするかを考えている。

  • 日本のものづくりは「育てる文化」を重視してきた。

一方、アメリカなどは「選ぶ文化」であり、それぞれ強みと弱みがあることを認識し、活用する必要がある。

アメリカでは、専門家で入ってくるので、翌日から仕事ができる。しかし、品質、性能、価格などを良くするには育てる方が強いと考えた。生産台数が落ちたとき、工場閉鎖やレイオフにつながるが、人材(人財)は大事なアセット(財産)である。

したがって、生産台数が落ちたとき、育てながらうまく乗り切るために、多能効化や他工場への応援などを行う。九州の工場などでは、生産車種を増やして生産調整に配慮してきた。

項目 育てる文化(日本的) 選ぶ文化(アメリカなど)
強み 高いロイヤリテイ。会社との一体感 即戦力になり、交換も自由
弱み ・ 時間がかかる。
・ 簡単には解雇できない
・ ロイヤリティや一体感はあまりない

 

A箸とナイフ・フォーク(やり方と道具)

 生産ラインで急病者が出て、日本人の指導者がラインに入ったところ、作業スピードが非常に速い。

日本人は織田信長が3組編成で鉄砲隊を組織し、戦いに勝った。一方、米国人は過程を重視し、外部の専門家を使って、パーツフィーダー(部品供給装置)を作って、道具志向により生産改善した。同様に機関銃は欧米で発達した。産業ロボットは米国でスタートしたが、日本人は改善をどんどん進め、使いこなした。

 日本の強みは、知恵、創意工夫、やり方の改善、臨機応変(フレキシビリティ)などである。1986年から米国で工場建設に係わった。米国に学ぶべきこととして「機械化、自動化、標準化、システム化」などがあるが、工場の参観ルートの変更ができないなど、小回りが効かなかった。

 グローバル化の流れの中で、IT技術の深化、システム化などは重要で、この流れは止まらない。

 しかし、わが国は「ものづくり」が太い柱の一つで、加工貿易は続ける必要があり、当分の間変わらない。競争に参加して日本の良さを発揮し、海外のよいところは取り入れて、元気に生き残っていくことが求められている。

 

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