人はどのように成長していくべきか(08年12月)
加藤諦三著『どうしても「許せない」人』を読んで KKベストセラーズ発行2008
1938年東京生まれ。東大教養学部卒。人生相談パーソナリティや心理に関する著書多数。
はじめに
「許すこと」のできない人・事柄と「許してはいけない」人・事柄がある。 虐めや憎しみを乗り越えられるかが分かれ道となる。質の悪い人、騙す人を許してはいけないが、「憎しみの感情を乗り越えること」が必要であり、自己実現している人はこれを乗り越えられる。人生にトラブルはつき物であるが、悪いことを上手く解決できるかは憎しみの感情をコントロールし、苦難を乗り越えることで知恵がつき、自分を騙した人を「心の中で断ち切る」ことができる。
1. 自分を許せない人―苛められる人、利用される人、
@人から利用され、苛められ、周囲に軽くあしらわれる人は自己蔑視しているのでこれらを「許す」。
しかし、人生を切り開くためには闘うべきなのである。他人が自分を虐待したら、それを許さないのが生命の基本である。押し付けられタイプは振り回され、悪いのは自分と解釈してしまう。
劣等感の強い人は相手を過剰に認めるが、恐ろしい錯覚であり、形の上での立派は本質的ではない。
A自分を利用する人を許してはいけない。自分を軽蔑する人は「許す相手」を間違えている。
まず、強くなり、自己評価を高め、自我を確立する。自分に正直になる。「許す」のはその後である。闘うことをしないと欲求不満のはけ口にされる。人間関係災害を避けるには、今まで悪環境の中で生きてきたことに自信を持つことである。
2.「許せない」気持ちを我慢する人―おとなしい人、口下手な人
@憎しみの感情を処理できなければ、いずれ周囲に危害を加えることもある。「抑制型」の人は自分の中の葛藤でエネルギーを消耗し、疲れてしまい、病気、うつ病になる。日常生活で満足していれば、ストレス耐性度は普通にある。望ましい社会生活を送るためのコミュニケーション力が欠如していると、真面目で口下手、お人よしの抑制型が追い詰められる。
A「感情的に恐喝される、裏切られる」などは、相手が見えないように悪いことをする。何度もこれを経験するとやがて全身が憎しみの塊になる。我慢をし続けると我慢する力は落ちてくる。心身が弱ってくる。こんな時は「いつか元気になるときもあるさ」と元気になるまで戦わないことだ。運動すること、食べること、睡眠をとること、日に当たること等々、待つのである。
B憎しみの感情をコントロールする「自我の確立」、「コミュニケーション能力」が必要である。
まず、自分の成長の歴史を受け入れる。自分が欲張りだと、不幸なことが憎しみに変わる。これに気づけば明日は開ける。不幸は自我確立のよいチャンスであり、自分の注意を生産的な生き方に向ける努力が自我の確立につながる。たくましく深みのある人間に成長すると不幸を乗り越えられる。
3.決して許してはいけない人―悪い人、ずるい人
@世の中では、被害者は、加害者から何度も繰り返し痛めつけられる。繰り返しだまされる甘い人と見られる。「人を騙す人」を同じ人間と考えてはいけない。冷静になって痛い目にあったら、自分を反省して、後は近づかない。騙す人は全く違った動物だと受止める。生きていく上で大切なのは、忘れようとするか、闘うことで解決するかどちらかで、中途半端は傷を深くするだけである。
Aアルコールは合法的であるが、社会に大きな打撃を与えている。同様に日常生活の中では「ずるい人」は見えにくいが日常的に多くいる。「ずるい人」には「心の痛み」がないので、騙されてやつれてしまった人はなかなか元気な姿には戻らない。
B騙す人は自分を信じられないから幸せになれない。騙される人は生産的な構えで生きていけば幸せになれる。騙す人は自分のこと、自分の利益しか考えていない。騙されたときは悔しいが、自己実現に向けて努力を続けることである。「許す」と「憎しみを乗り越える」とは違う。感情をコントロールして最後まで命を全うし、ストレスから病気にもならず健康なら、それは偉大なことである。
4.「許せない」ことが間違っている人―神経症の人、欲求不満の人
@ナルシストを神経症者とし、彼らは周囲が自分を思うように扱わないと「世の中が間違っている」と怒る。実際の自分以上に扱えと周囲に要求するが、世間はただの人として扱う。「許せない」と思ったときに、自分に神経症的傾向がないかと反省し、自分の欲求の正当性を確認するために一度立ち止まることが大切である。
A親の言うことに何でも「ハイ、ハイ」という子は、小さい頃から我慢して「努力と忍耐」で生きてきたが、もたらされたのは不幸であり、「不満と恨み」である。自分を許せない人は、周りも許せなくなる。トラブルの少ない人は、厄介な人間関係を適切に断ち切っている。「自分が変われば世界は変わる。」自分の感じ方が変われば、現実に気がつくと言うことでもある。
B生産的な態度で生きていれば、いつかは憎しみを乗り越えられる。過去のことは過去のこととして心の中で断ち切っていける。不幸の原因を「人のせい」にする人は憎しみの感情を乗り越えることができない。自分の側の原因を認めることはつらい。悔しい。しかし、だから人間は成長でき、心理的に伸びる。「自分が持っているもので今日一日を精一杯生きる」とよい。
C「許せない」、相手を見返してやりたいと思うのは自然な感情である。しかし、人間には「許す」という「自由」が与えられている。苦しめられた上に、なお「許す」という行為があるから人は偉大なのだ。世の中にはどうしようもなくずるい人がいる。「せっかく生を受けたのだから、最後まできちんと生きよう」と決断する人が人間の偉大さである。
D「将に将たる器」とは、つらくても憎しみを乗り越える人である。人は理屈ではなく、心で人の上に立つのである。自分自身に対する不公平を許せる人が人の上に立つ器量であり、「心のゆとり」が器量である。そういうひとに人は安心感と信頼感を持つ。明るい顔が、人の上に立つ条件である。
5.強く生きるために、憎しみを乗り越える
@「いつかは」と心に誓い、そのために今必要なことは基本的なこと、例えば健康に留意する、睡眠をとる。食事をおろそかにしない。運動を心がけるなどである。憎しみや怒りはエネルギーであり、そのエネルギーを利用して生産的な活動をすることである。「許せない」と思ったら具体的に行動し、「いつか、必ず」という確信があなたを救う。
Aもう一つ大切なことは「自分の人生の目的」をしっかりと意識することである。そうした目的は長年にわたる地道な毎日の行動の中から生まれてくる。心が満足していれば、許せない人を「この程度の人間か」と思うことができる。心が成長しているときは「あの人はこの程度の人間」と心の中で割り切れる。感情的に重要な問題にしないことであり、人生は地獄にもなるし、天国にもなる。
B先に進むために、相手を心の中で「断ち切れ」れば、人は救われる。ずるい人などを心の中で乗り越えることができれば、悩みは解決に向かう。ずるい人は本性を見せない。しかし、自分で動くとずるい人が誰だかが分かる。「自分のことは自分でする」態度、「何のために生まれてきたのか、何のために生きているのか」がハッキリ分かれば、気を奪われることはない。
C「心を断ち切る」ということは相手に無関心になることである。「なぜ」としっかり向き合うことで、相手がよく見えてくる。あなたを生きづらくしている欲や復讐心、執着を捨てるのはあなたの決断である。それが人生を左右する決断であり、人間の自由なのである。自分だけが自分の人生を決めることができる。
D恥知らずな人間はこの世にいないということはありえない。エネルギッシュな人は、騙された人を心の中で「断ち切り」エネルギーを残し、好循環につなげる。精神力の強さで生きていく人がたくましい、寛容な人である。目的があれば、人生に幸せを感じ、いつもエネルギーがあれば、どんどんと周囲の良くない人達と縁を切っていける。年をとればこれは大切であり、身軽になれる。
Eエネルギッシュな人は財産を失うことを恐れない。目の前の小さな悩みを必要以上に大きく感じているならば、生命力が落ちているのである。そもそもストレスは欲や執着があるから生まれるのである。現在の自分を認め、「生きる目的」をもつことが幸せを呼ぶのである。
6. 自分を変えて、幸せな人間関係を手に入れる
@ずるくて恥知らずの人もいるが、周りには感謝する対象の友達がいて、憎しみの感情をコントロールできると人生は変わる。闘いを避けてはいけないが、自分を信じれば「耐えること、忘れないこと、闘うこと、信じること」で対処できる。相手のツケはいつか来る。そのときまでじっと我慢する。恥知らずの人間がいるから友達や家族に感謝するようになる。
A「今の自分でいい」と思える人は、自分の恵まれた環境にも目を向けることができる。「一緒にいて楽しい友達がいるのは幸せ」と思うと幸せに目がいき、感謝しようと思う。人は強くなると、ひどい仕打ちをされても、自分の現実を認めるから「どうでもいい」と感じるようになる。強い人、たくましい人は作為がない。策を練らない。だから失敗しても怯えない。
Bトラブルは乗り越えるだけである。人間関係のトラブルは一生終わらない。いつもエネルギッシュ な人はこのような悟りを開き、生きるエネルギーが湧いてくる。逆境にいる人こそ、力強く生きら れる。苦しみの中で明日への夢を見つけることで、一番大きな幸せを手にいれられる。