日中科学技術シンポジウムに参加して(09年11月)

日本技術士会近畿支部主催で上海との交流が始まって5回目のシンポジウムが大阪であった。従来から近畿支部の中の中国部会が活動の推進役として活動しており、初めて参加したが、内容の濃い印象深い催しであった。

@中国・上海のダイナミズムの印象

 発表を通じて中国の躍進ぶりが強く印象付けられた。私が上海に行ったのは3回で、10数年前環境の調査団のメンバーとして参加したのが最初である。この時は、市内に地下鉄が2路線できたところで、上海は特別発展しているといいながら、まだ貧しさと同居した状態であった。蘇州までできた高速道路を利用して、「月落ち烏鳴いて霜天に満つ…」の漢詩で有名な寒山寺やシンガポール資本の新設工業団地を見学した。この時に上海は大気汚染や水質汚濁の環境問題の改善に大きな予算をつけて、長期的な取り組みをスタートさせていることが印象深かった。

一昨年に企業の上海旅行に同行したときには、新空港からリニアモーターカーで最高時速430kmで市内に入ることができ、市内の高速自動車道なども充実していた。2010年には上海万博があり、40年前の大阪万博を髣髴とさせるが、情報化の流れの中で多くの情報を整理しながらインフラの整備を含め準備が着々と進展しているとの印象を強く持った。

a)地下鉄網と住宅の充実

すでに総延長300kmを超える地下鉄が整備されている。ちなみに大阪の地下鉄は90年以上の歴史があるが、総延長100km程度である。住宅環境も格段に改善され、新築では住戸あたりの床面積がすでに日本を上回り、広すぎるのが問題とのことである。また、空調負荷を1/2に下げるための断熱対策などの規制が始まっている。

農村部についても、住宅を集約して、耕地の生産性をあげる取り組みが進んでいると発表があった。

b)圧倒的な市場規模と女性の社会進出

 最近の朝日新聞に粗鋼生産高は5.9億トン(日本の5倍)、携帯電話の生産台数は年5.6億台、デジカメの生産台数は8000万台で世界シェアは50%、ノートパソコンの生産台数は1億台、世界シェアは80%とのことである。また、都市部で空調機は2台/戸、農村部でも1.2台/戸普及し、自動車の生産台数が米国を抜いて世界一になったというが、開発スピードはとても速い。

 もう一つ特筆すべきは、今回のシンポジウムに来られたメンバー約30名の半数は女性であり、日本と大きな差がついているように思えた。

c)省エネとCO2削減対策について

 郊外の外高橋火力発電所の3期工事では、最新鋭の石炭火力発電所の発電効率が43%と最先端の運転を実現しており、空調も天然ガスによるコージェネレーションの導入が有効との評価がされているなど、省エネ対策にも積極的に取り組んでいる。しかし、今はまさに高度成長期の真っ只中で、インフラ整備も当分続くことから、国家戦略としてCO2の削減目標を設定することについては強く反対するというスタンスが感じられた。なお、発電所や自動車など、当初のシステム導入はドイツからのものが多いとのことであった。

d)関西との交流

 大阪市、大阪府は上海市と姉妹都市であり、大阪での公害の経験を移転するために大阪市などは、長年にわたり、随分力を入れて来た。このような場が産学官連携で充実することを期待したい。

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