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第9号見出し

日本IBMの経営改革とリーダーの役割北城恪太郎氏講演 追手門大学フォーラム(2010)より

1944年生まれ。慶応大学工学部卒業後IBM入社。1993年に社長として経営改革を実行。

国際会議で日本人は質問しない。インド人はしゃべりすぎるといわれる。大学卒業後システムエンジニアとして電力会社の電力系統システム開発などを担当した。36歳になって管理職になり、金融機関を担当したが、大変苦労した。

世の中が大きく変化し、IBMも仕事の仕組みを変える必要があると、何度も米国本社に頼みに行った結果、2年後の38歳で本社の会長補佐になり、41歳で取締役、48歳で社長になった。当時は業績が悪かった中で、椎名さんから引き継いだ。いわゆるエリートではなかったので、必要と思った事を言えたし行動できた。また、経済同友会の代表幹事を4年間務めた。

IBMは現在、アジアで16万人、うち日本人は2.5万人の従業員がいる。アジアの人は、勉強し、意欲もある。技術力もある。英語も重要で、国際社会では道具として必要である。

経営危機が迫り、社内は落ち込み赤字であった。そこで、サービスの会社に変革するため「ビジョン21」を策定し、お客さま志向を打ち出して変革をリードし、目標を三つに集約した。

お客さま志向を貫くため、お客さま満足度向上委員会を社長自らが委員長となり毎月開催した。オブザーバーで部長クラスを参画させると共に、売上、利益だけではなく、できたかどうかを見る目標管理の仕組みを人事評価制度に組み込んだ。

業績悪化の要因を調べ、大型のコンピュータのレンタルだけでなく売り切りも導入した。社会は技術革新のスピードが速くなり、通信スピードは 5年で100倍と進歩が続く。早く行動する事と同時にハードウエアではなく、利用、サービスに替えるように経営の方向転換を進めた。結果としてハードの売上比率は当時の70%から、現在は10%になっている。

サービス業務は利益が少ないので、販売管理費を半減するためにプロジェクトチームをつくり短期決戦に努めた。その結果、本社間接部門は半減以下になった。人数が少なくなると精鋭になる。対応できない人には、早期希望退職も実施した。また、部門横断的にプロセスのリエンジニアリングを進めたが、30%減らす新しいアイデアを出させるよう努めた。事務所、事務管理、物流経費、在庫など 一年で300億円のコストダウンを実現できた。同時に不採算事業からの撤退をめざし、赤字の事業、低成長事業、他社との差別化ができない事業などからの撤退を決断し、経営資源を成長分野に投入した結果、これらに関わっていた経営者の時間が浮いてきた。

自由闊達、明るく楽しく前向きに

人事制度について多くのメニューを作り、目標管理と達成度合いの記録、総合評価により処遇するようにした。高い目標を達成したかを面談による評価、最終評価は二段上の管理職が行う。他の部門を手伝ったかを評価するなど、人材を育成、また社員が納得することが重要である。

経営人材の発掘とマネジメント

30歳前後で経営人材候補者を選抜し、毎年見つけ、見直す仕組みの導入や、社員満足度調査にウェブを活用したが、ほとんどが建設的な意見である。実名が分からないように内部通報制度を活用し、女性を含め能力活用、多様性の確保に努めたところ、業績が回復した。リーダーシップとしては、情熱、決断力、確信、誠実さ(インテグリティ)、適応力、強靭な精神力、共感、自覚、謙虚さなど常にチームのために誰もいないところで誠実に活動することを求めた。

ビジョン、目標の実現

実現の具体策として、現場の人の動機付けとして学んだことは多くある。

「繰り返し伝える」、「現場、現実、現状」重視、「権限移譲」、「高い目標とイノベーションのアイデア」を求め、悪い報告を怒らない。また、意思決定のスピードが重要であり、朝礼暮改を恐れないようにした。「学ぶに暇非らずという者は、暇ありといえども能わず」である。

社内に向けては「あたま」として「明るく、楽しく、前向きに」をいい続けた。即ち、@ビジョンと具体的な実行計画をつくり、A倫理観と情熱を持ち、B「あたま」を実践している。

Q&A

Q:事業の撤退について
→環境によるが、黒字化の目処が立たないこと、差別化できないことであり、赤字は評価されていない。低成長、伸びる事業に変わる。やっている人の意気が挙がらないと、撤退を決断し、伸ばす方に力を注ぎ、支援する。

Q;日本の状況は良くないが?
→簡単ではないが、自ら取り組む。できると思うことに挑戦しよう。国境がなくなりつつあり、アジアと同じ仕事なら、同じ収入になる。IT化、グローバル化が進んでおり、GDPの停滞について、覚悟を決めて、イノベーションの仕組み、取り組み、新しいことに挑戦していく。批判しても、守ってくれといっても伸びない。農業は天候が相手であり時間を掛けて対応する。競争力を高めるために、決して内向きにならないことである。

Q:人材の育成、登用について女性の違いは?
→優秀な人がいる.社会が女性の活躍を抑えている。保育園を整備し、育児、介護の負担を軽減しないと挑戦意欲、活躍のイメージができない。応援、支援、助言、ネットワークづくりが必要である。女性の登用について2020年30.%目標を閣議決定しているが、知られていない。女性は視野が狭いのではないので、活躍の場を作ることが重要である。

Q:問題点の把握の本質は?
→コツはない。常によく考えることである。問題が見つかれば、解決策も必ず見つかる。このためには、全然違う人の話を聞いて思いつくことがある。

Q:ダイバーシティ(多様性)といっても同じ様な仲間が集まるのでは?
→難しい。多様性とは色々な人と交わることで新しいアイデアが出てくる。外国人と接する。本を読むなどで葛藤が出てくる。学生時代は時間があるので、有効に使える。

Q:経営駆動力、、目標達成、プロジェクトとは?
→年初どおりではないと、途中でも替える。会社として何をしてもらうかで、数値ではない。人間を見ている。過去の評価より、リセットして前を見ることが重要である。

Q:厳しい経営の中で、どう過ごしているか?
→リラックスするためにはゴルフくらいである。食事は三回食べる。ストレスは有ったが、休んだことはない。要は気分の持ち用であり、これで良いんだと前向きに考える。自分に言い聞かせる。あとは、運命を受け入れるが、企業は公共的な組織である。

コメント

講演の後、多くの質問にまじめに答えられていた。「あたま」が印象に残った。また、学生時代に勉強された英語はコミュニケーションのツールである。自分の考え持ち、これを英語で本社に伝えるなど、今後の若い人たちの必須項目と感じた。

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