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第9号見出し

第1回KYOTO地球環境の殿堂表彰式と記念講演より

2010.2.14(日)に、京都府、京都市等がCOP3の実績を踏まえ、新しく賞をつくり3名が選ばれ、それぞれ記念スピーチ、シンポジウムがあった。

1.記念講演

@真鍋淑郎氏 (プリンストン大学大気海洋研究プログラム上席研究員)
1931年愛媛県生まれ、東大理学部卒業。その後米国で研究活動。
早い時期から気候の数理モデルを作り温暖化などの世界的な変化を予測研究してきた。

「温暖化と水」

 気候の数理モデルは、現在非常に進展した。年平均の降水量について、予測と実測値は非常によくあっている。また、土壌水分の分布を調べている。世界の水は温暖化の進展に伴って、雨の多い地域は益々降雨量は増えるので、洪水防止対策が必要になる。一方、乾燥地帯はさらに乾燥が進み、頻繁な水不足が起こり、状況をさらに悪化させる。したがって水の無駄遣いを減らすだけでなく、水を作る技術や運河を作り水を運ぶなどの対策が必要になる。また、温暖化に伴い、雪解け水について、貯水対策などが必要になる。

Aワンガリ・マータイ氏 (ケニア共和国環境等副大臣、2004年にノーベル平和賞受賞)

1940年ケニア生まれ。米国の大学を卒業し、ナイロビ大学(獣医学)を経て植林活動など。COP3で達成した成果が後退しないよう、日本はリーダーシップをとって欲しい。先進国の責任、途上国への支援なども必要であるが、どの国も活動が必要である。一方で気候変動への影響を待てない地域もあり、予防が必要である。「もったいない」のライフスタイルづくりや植林のキャンペーンを通じて、人を育て協力し合うことが重要である。 

生き残るためには人間という種の適応が必要であり、これには宗教家も声をあげて欲しい。とくに森林破壊対策が重要で、アフリカのコンゴ盆地でも英国などの支援で取組みを始めた。アマゾンや東南アジアの熱帯雨林の保護など、人類は小さな地球に住んでいることを自覚して協力が必要である。

Bグロ・ハルレム・ブルントラント氏 (元環境と開発に関する世界委員会委員長、ノルウエー首相)

1939年ノルウエー生まれ。医師から国会にでて環境大臣、首相などを歴任。環境に関する世界委員会の成果として「Our Common Future」で持続可能な開発を提唱。ビデオでのスピーチがあった。 1987年に世界委員会の提言として本を出した。人間活動を変えることは可能であり勧告をした。その後、1992年にリオサミット、1997年にCOP3があり京都議定書ができた。温室効果ガスに関する新しい合意が必要であり、よい条約を作るためには、科学的なデータを活用し、全ての国が参加し予測可能な検討を加える必要がある。先進国は温室効果ガスを全体の30%排出し、一方で途上国の役割が増加している。全ての国が参加しての合意が必要で、先進国には排出抑制のための技術と途上国支援のためのお金が求められる。これらに取組み、行動し、貢献し,そして成功して欲しい。


2.国際シンポジウム:地球環境は皆のもの「グローバルコモンズを目指して」 

 秋篠宮ご夫妻をお招きしてのシンポジウムは、午前に行われた式典より参加者が増えた。

2人の基調講演に続きパネルディスカッションがあった。コーディネーターは環境経済学の第一人者である植田和弘京大教授で、全体を上手くまとめられた。

@パーサ・ダスグプタ氏 (ケンブリッジ大教授)
1942年生まれ。経済学。 植田教授が著書のいくつかを監訳されている。

 私の数10年にわたる仕事の大半は自然の経済学を考えること、文化と自然との関係が問題である。資源の問題と貧困について、貧しいことが問題とする立場もある。環境問題と貧困・経済の問題など様々な見方がある。20世紀の経済学は自然を切り離して考えるので、GDPのグロスが厄介な概念をもたらす。自然資本の質の低下を差し引いて自己再生型の資本と考える必要がある。自然資本は時間的、空間的に影響するので、コモンズの悲劇につながる。海は共通の人類の遺産であり、マーケットは一つの制度である。環境は制度の崩壊につながる。

  • 社会規範の崩壊。 コミュニティの中では社会規範がある。
  • 管理の信頼がないので合意に至らない。 例えばCOP15は合意できなかった。
  • 合意はあるが公平でない。
  • 他を排除する例がある。

 自然の経済学について、信頼関係が重要になるが、COP15では国ごとに利害が異なった。

かってモントリオール議定書でのフロンの取り決めは成功した。問題は明確で分配金も大きくなかった。これに対して、CO2の問題は遅々とした動きであり、適応と軽減対策は補完的であるし、国により差がある。例えば、風車を作るのは共通の利益であり、堤防を作るのは地域の利害に関わる。法の支配、一般の常識に照らして、信頼と協力のために常識と品位が大切である。

Aワン・ヨンチェン氏 (中国NGO緑化園ボランティア主宰)
ワン氏は、ジャーナリストであり環境保護の活動家であり、豊富な写真による紹介があった。

 私はジャーナリストとして、NGOとして、中国の政策に及ぼす影響を持っている。10数年前に較べて現在では、チベット高原に氷河がなくなり、揚子江の源流地も大きく変わった。以前の草原は、現在では変わり果てた荒廃地である。わずか10年の変化は非常に大きい。黄河は、源流にはまだ湿地があるが、二つの湖が急激に小さくなっている。水不足のため、街で水を売るようになった。メコン川の源流域も温暖化の影響が見られる。少数民族の水の使い方として従来は4段階に利用していたので、貧しいかもしれないが自然に優しい暮らしをしている。

 しかし、雲南省の川にはもう水がない。チベット高原では、ヒマラヤも8年で大きく変化した。 エコツーリストとして行くと現地の変化が見えるが、現地人はなぜかと聞いてくる。彼らが幼かった頃は水の心配がなかったという。その他、色々な地域の変化について写真による紹介があった。

 揚子江の140年間の変化を見ると、流域の湖の数が減っている。そこでは、人間だけではなく、動物も植物も水を必要としている。この.川に13のダムを作る計画があったが反対した。住民にとって自然は神であり、宗教とも関連している。例えば、黄河流域に.1999年から植林活動を進めてきた。幸せな生活は、自然との友好関係にあると思われる。揚子江の川イルカの保護活動を続けている。イルカやトラも生きているのである。

NGOは政策に影響を及ぼしている。マスコミを通し、また、市民も子供も自然を理解している。

まず、自然への理解が必要であり、HPやレポート出して紹介している。

3.パネルディスカッション

(植田和弘氏:U)コーディネーター: 基調講演では次の話があった。

    • 合意に至らないのは、協力や信頼の問題があるからである。
    • 川の様子の変化を見ると温暖化が関わっている。どうすればよいかも提言された。

 次に2人のパネリストに発表をお願いしたい。

(秋道智弥氏:A)(総合地球環境研究所副所長)

経済と環境をどう考えるか、ハッピネス(幸せ)について、GHP指標がブータンで提案されている。真の豊かさと貧困の指標により、人間とは何か、自立的に生きることを考える必要がある

 環境との関係のリスクマネジメントや自然としてフォレスト(森)のあり方など未来に向けて考え、共有する必要がある。自然と人間の関係性について、欧州と東洋とでは水とのかかわりを含め異なるように思う。例えば、山形の岩かき、秋田のハタハタなど、山の樹木の保全が海を守るという例がある。一方中国の三峡ダムができて、土砂が下流に流れない問題を発生している。

(U) コモンズの保全と管理が元々あり、重要な視点である。

(末吉竹二郎氏:S)(国連環境計画UNEPの金融イニシアティブ特別顧問) 

 私はお金、経済について話をする。金融がどういう役割を果たすか、責任ある金融とは何か?グリーン経済がなぜ必要か?などについてである。

20世紀は経済成長至上主義であり、経済活動のパイが大きくなるからハッピーになると考えた。これは短期的、排他的、環境破壊的であり、結果として気候変動は最大の市場の失敗になった。21世紀型グリーン経済として、長期的、包含的、環境保全的な考え方を実現・配慮する必要がある。

@政治・行政の責任、A経済(企業)の責任、B金融(投融資)の責任、C消費者・社会の責任

金融は社会のインフラであり、必要なところに投融資する。責任投資原則(PRI)としてE(環境)、S(社会的責任)、G(ガバナンス)を反映させる動きが始まり、投資額は20兆ドルにもなる。

また、受託者責任の見直しのため、ファンドマネージャーを縛るルールが必要である。「私のお金を環境を守るように使って!」という預金者の声、新しい風が吹き始めた。環境力による格付けが始まっている。昔の人の教えとしての地球を大切に扱うことが重要である。

(U) 金融はインフラであり、多次元的な評価が求められるとの提言である。

(D) ワンさんの話は残念だという点で共感を覚える。これからのエコノミストは人間の幸福(ハッピネス)、安寧(ウエル・ビーイング)が評価の対象になる。自然を経済の中に入れる必要がある。  

幸せについての調査で、日本は急速に経済発展したが、幸せの分布は同じだった。ある点を越えると横ばい、飽和するのである。旅行、自動車だけでなく、環境、平和、消費、自然の再分配が必要である。もう一つは脳神経学の分野での症状、気分の変化がある。

(U) 自然と思っていること、よく生きること、安寧、生活の質など、自然資本は生活によいものを与えるもので市場がないものが多い。

(W) 海岸で二人の男性が日光浴しており、金持ちが漁師に「お金があれば色々できる」といった。漁師は「今、十分に居心地がよい。」と答えた。私は北京出身だが、頻繁に自然のあるところに行く。

(S) 銀行は見方を変えてきた。将来に対する負債になるCは、キャピタルからカーボンになる。Cの評価について、偽装、チェックについて、金融機関が審査機能をもつべきである。

(U) 同感である。しかし、現実的には進展していない面がある。

(D) 価格付けは難しい。適正価格をつけて、カーボントレーディングを行うことが求められる。国家が環境つくりをするために、一国だけではない信頼と協力に向けて努力を続ける必要がある。

(U) 黄河の水などについては源流より断流が問題になるのではないか?

(W) 断流と汚染が問題である。断流は10年以上になるが、なくなりつつある。もっとシンプルライフを考えることが重要である。

(S) 炭素に価格が付いていなかったが、2010年から東京都が条例で動き出す。温暖化のスピードに対する対応、チェンジが必要である。企業から見ると突然に見えても対応は早い方が安全である。 

(U) 最後に信頼と協力を早く作り上げるためにどうするか。

(D) 大きな問題であり、まず認識することである。米国、中国もスタートしかけており、スタートは可能である。日本がイニシアティブをとれば、EUは協力することになる。

(U) 富、幸せ、投資、豊かさなどの見直しが必要になる。指標,測り方の変更も必要である。    

基本は多様な考え、経験、知識の交流、考えあうことであり、共通認識が必要である。   

コメント

CO2削減は世界的な課題であり、大気温度の上昇を2℃以内に抑制することが共通の目標になった。CO2抑制のために予防原則、科学的な知見に基づき取組む。そのために技術と支援(お金)が必要になるとの方向付けがされている。

 さらにパネルディスカッションでは、CO2というグローバルコモンズへの取組みのためには、国ごとの信頼と協力が必要であるとの指摘があった。同時に自然とのかかわり、幸福や安寧についての考え方についても新たな見直しと行動が必要との重要な問題提起があった。

2010年のCOP16では、世界の進むべき方向について合意された。国際的な優位を保つためにもCO2削減に向けた技術開発やシステム検討を止めてはならない。

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