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第9号見出し

リビアでのインフラ建設と環境対策  100628

 ミスターリビアといわれ、日本リビア友好協会副理事長で、同国の開発に30年間以上関わってこられた新居哲技術士(経営工学部門)によるご講演をお聞きした。氏は神戸製鋼所在籍時に製鉄所建設に携わって以来、現在も頻?にリビアと日本を往復し、活躍されている。

リビアは資源が豊富

 同国は人口600万人弱、国土面積は日本の4.5倍と広大であり、地中海に面する北アフリカの中央部に位置し、地政学的に重要であり、かつ豊富な資源に恵まれている。

  • 現在は石油の産出量が世界第8位であり、これにより経済が活況を示しているが、これはそう長く続かないと考えられている。
  • 砂漠地帯の地下には膨大な良質の水資源があり、1985年から開発が始まり、直径4mのパイプで総延長5000kmにも及ぶパイプラインが敷設されている。貯水量は琵琶湖の総水量の1500倍あり、供給する水の単価は相当に安く、潅漑用などに使われている。今後は国際的に逼迫しつつある水需要に対応し水ビジネスへの参入が見込まれる。
  • 太陽熱(光)発電、ソーラープロジェクトについては、同国とシーメンスなどEUの12社が50兆円規模の開発に合意した(2009年)。計画では2050年までに太陽熱発電や風力発電などの設備を設置し、EUに電力を供給する。ソーラーエネルギーについて、わが国では(0.1kW/m2程度の利用と)希薄なイメージが強いが、砂漠地帯などで国土面積の1%弱の10000km2にソーラーパネルを敷設すると、発電量は10億kW規模となり、日照時間も長いことから、わが国の総電力量の数倍にも相当する発電が可能になる。

日本に対する期待と対応方向

 日本人は正直で勤勉であり、同国の信頼度は高い。高い技術ポテンシャルを持っているが、総合的なエンジニアリングについては、EUやシンガポール、韓国企業(大宇、現代、サムスン)などの下請に組み込まれているのが現状である。水ビジネスについても、①部品・機器製造、②装置の設計・建設、③事業運営・保守管理を統合的に対応出来る企業体がまだ育っていない。

 今後は政府が2010年6月に閣議決定した「新成長戦略」に基づき、官民連携して海外展開を推進することが期待される。東京都や大阪市などの自治体では、給水・運営管理経験を活かし、海外進出に意欲的と言われている。しかし、期待通りの活躍ができるかについて乗り越えるべき課題を伴う。

 また、リビアは人口の70%が30歳未満であり、若者が多い国である。国は大きな資源を持って豊かとはいえ、失業率が高く、安定した国家建設のために大きな課題を抱えている。人を育て、雇用・仕事を創出する取り組みに、わが国が貢献することが望まれる。

リビアは今年、クロマグロの禁漁をめぐっての国際会議で、見通しが見えない際に、先陣を切って、わが国の立場に賛意を示し、会議の流れを決定付けるのに大きな貢献をした。新居さんなど日本人の活躍が同国の意思表示に大きな影響を与えたと思われる。

国家の建設・開発事業などに際し、技術だけでなく、高い志をもち、経営にも深く関わり、信頼される活動をしていることから新居氏はミスターリビアと敬愛されているのであろう。勇気を与えられる講演であった。

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