
「住宅貧乏物語」と住宅政策 早川和男氏著 (岩波新書1979発行)
早川和男氏著(岩波新書1979発行)1931生れ。京大卒。住宅公団を経て神戸大名誉教授。
この本は現在も販売されている。下記のように毎日新聞(2010.2.26)の著者に対するインタビュー記事からも事態は変わらず、より深刻であることが分かる。
過密住宅の影響
肉体的、精神的に、そして道徳的に人間としての尊厳を傷つけることである。家族構成員一人一人が人間として生きるにふさわしい部屋を持たなければならない。同時に家族が団欒する部屋が必要である。住宅政策は、一世帯一住宅が実現すれば、あとは関知しないというものではない。
弱い人々へのしわよせ
65歳以上の老人は1970に7.1%、2003に19%、2008は22.1%(21%以上になると超高齢化社会という)である。また、生活保護世帯は2005年に104万世帯147万人で世帯数比率は1.2%で1976年と同じである。都心、職場に近いところでないと暮らしていけないから、公営住宅に入居後生活保護を受ける。住宅政策は、子供にも老人にも、ハンディキャップのある人々にも住みやすいものであり、生活を全体としてよくすることに役立たなくてはならない。ただ家が建てばよい、戸数のつじつまがあえばよいというものではない。
遠距離通勤と引越しが与える影響
家族構成の発展段階における各種の住要求を満たしていくには、住宅資産を社会的に有効にしていく住み替えの制度が必要であるが、この住み替えは、できる限り地域との結びつきや人間関係を断ち切らない居住区域内での移動が好ましい。
居住環境の悪化
火災、地震対策、生活環境施設、騒音、大気汚染などの道路公害、……
都市とは人間が住み生活するところであり、住居が基本になる。通勤問題を含めた人間生活を含めた都市計画として一体化してやらなければ実現しない。従来、都市計画と住宅政策が別のものであるかのように考えられたのは、基本的思想とそのための計画体制がなかったからである。
家計を破壊する住居費
高い家賃と住宅価格が、庶民からは住宅を手の届かないものにした。一般物価が上がり、また税金が増える一方で、借家階層にとって家賃が生活を圧迫する。平均的なサラリーマンは、妻の働きがなければローン返済は難しい。公営借家の数が少なく、住宅難のしわ寄せは借家人に寄せられていく。やむをえずマンション購入しても、ローン返済が重い負担になる。大都市においては自己の力で持ち家を取得することが不可能である。
住宅貧乏文化
人間の生活の正しい形成のためには、良好な環境が必要である。ヨーロッパでは「住むことが大切だと思うのは普遍的な考え方」として、住居を政治の中心にすえる考え方が強い。英国では第2次大戦後数年間、全住宅建設戸数の7〜8割を公営賃貸住宅として国家の手で建設した。日本では、市民が人間にふさわしい住宅と都市を未来に向かって主体的に作るという意識や運動が必要である。
毎日新聞(2010.2.26)早川和夫氏へのインタビュー記事より
・「ネットカフェ難民」や「派遣村」など安定した住まいを持てない人々の問題は?
→貧困層の増加や雇用の不安定化がいわれているが、問題の根底は住まいの貧困である。家さえ保障されていれば、路頭に迷うことはない。「住居は人権」であり、生活の基盤である。
・なぜ「住まいの貧困」が拡がっているのか?
→日本の住宅政策は持ち家に偏っていた。「住宅貧乏物語」で問題提起した。日本の住居は「ウサギ小屋」と揶揄されるが、日本人はそのことへの関心が低い。政策は改善されず、後退している。
・なぜ住宅が十分に供給されないのか?
→住宅には社会保障と同様、市場原理は成り立たない。民間賃貸住宅の経営は、初期投資が大きく、低所得者は狭くて劣悪な住居しか選べない。住まいの保障は政府が行うべき社会政策である。ILOは1961年に企業による住宅建設を禁止し、国家の責任で行うことを求めている。
住宅は「居住福祉」として、人々の暮らしや健康、福祉の基盤である。EUでは公共住宅の建築や公的家賃負担制度に加え、家賃の低い社会住宅建設に対し、100年返済の無利子融資などの支援をしている。わが国も住まいの保障を最重要課題の一つとして取組んで欲しい。
コメント
大都市にも公営住宅の数は結構多い。しかし、耐震対策や断熱対策などが必要である。建設投資の縮小のため、大手ゼネコンも海外進出を真剣に模索しているが、国内で良質で安価な公共住宅への改築などを強力に進める政策が強く求められていると思う。