
橋についてのアレコレを考える (その2) 橋の観光的価値から維持管理まで
フィレンツェのベッキオ橋、ベネチアのリアルト橋は、観光都市の施設の一つとして強く印象に残っている。観光も産業であり、トータルのシステムとして魅力のある橋を見せる工夫が必要になる。どう見せるかについて、近々旭川の旭山動物園の成功話を聞く機会があり、ここからヒントを得たい。
錦帯橋と世界遺産について
2008年秋、技術士会の環境研究会で山口・北九州へ研修旅行に行き、錦帯橋を見学した。見学会は、いつも業務知識の収集と観光、懇親のバランスを考えて実施している。第1日目は錦帯橋組と山口SL号組に別れ、夕方下関の旅館に合流してふぐ料理を楽しんだ。
最初に地元ボランティアの方のお世話で、橋の模型つくりに取り組んだ。太鼓橋が一つと橋脚が二つの模型で幅50cm、かなり精巧なもので、夢中に製作した。その後、ガイドさんの案内で、橋やお城を見学した。
錦帯橋を世界遺産に登録しようと地元は熱心に活動しているが、認定されなかった。270年間続いた石組みは穴太衆(あのうしゅう)が作ったが、1950年の水害時に橋と橋脚が壊された。復旧時は外観は同じだがコンクリート製に作りかえられたので、優れた技術が継承されなかった。専門の技術士は、技術が伝承されず、世界遺産登録は今後も難しいと評価していた。
橋の技術と阪神淡路大震災の記念施設
「橋の科学」を読んで、人類は技術者が英知を集積して、多くの美しいデザインの橋を作ってきたし、明石海峡大橋など新テーマに挑戦する中で技術が発達してきたことが理解できる。
阪神大震災での展示物や、防災対策について大震災を激震地の間近で経験したが、その日の驚きを他に伝えることは難しい。
- 淡路島、淡路市にある野島断層記念館は、現地で発生した断層や、壊れた住宅をそのまま保存しており、震災のイメージを把握するのに説得力がある。
- 神戸中央区のHAT神戸にある「人と防災未来センター」の中の「防災未来館」では阪神・淡路大震災発生時の激しい揺れによって破壊される町やビル・鉄道橋や高速道路などを、最新の調査・研究に基づく精密なCG画像により再現して大変迫力がある。
- 東灘区の深江には阪神高速道路鰍ェ資料館として、破壊された高速道路の橋脚などの部材を現物で保管しており、当時の生々しい記憶がよみがえる。
防災対策などについて、毎年シンポジウムが開催され、関係者が問題意識を再確認しているようである。しかし、これらの展示館での展示を見ることで、一般市民に対しても十分説得力がある。
それでは、技術者、専門家は今後どうすべきか。学校や高速道路など公共施設は、万一に備えて、耐震補強を実施することについて異論はない。橋梁についてもインフラとして、経済的に適切に診断し維持管理するシステムの構築とその技術開発、そしてその成果と活用した適切な維持管理が重要である。
今後、わが国では大規模、高度な技術開発でなく、既存技術・システムを有効に活用することで低コスト、短工期、LCC(ライフサイクルコスト)性の高いシステムを目指すことになる。今までの技術開発主導から方向転換を図ることが世界に通じる技術となる。
一方、個人の住宅などでどう対応するか。私たち市民は、@老後の健康、Aお金の確保、Bリスク対策を重視して超高齢化社会に備えざるを得ない。それぞれが置かれた環境は異なるし、国や自治体に期待できない時代に入っているので、個人の判断に委ねざるを得ない。